仏書・良書に親しむ
秋の読書特集2021

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『週刊佛教タイムス』2021年10月21日号の秋の読書特集では、16冊の仏教書・宗教や信仰をテーマにした書籍をご紹介しました.



・安田次郎 著 『尋尊』 吉川弘文館
・近藤俊太郎 著 『親鸞とマルクス主義 闘争・イデオロギー・普遍性』 法藏館
・高橋原 堀江正宗 著 『死者の力 津波被災地「霊的体験」の死生学』 岩波書店
・小林崇仁 著 『日本古代の仏教者と山林修行』 勉誠出版
・飯島孝良 著 『語られ続ける一休像 戦後思想史からみる禅文化の諸相』 ぺりかん社
・田嶋隆純 編著 『わがいのち果てる日に 巣鴨プリズン・BC級戦犯者の記録』 講談社エディトリアル
・野世英水 加藤斗規 編 『近代東アジアと日本文化』 銀河書籍
・田畑正久 桑原正彦 編 『富士川游の世界 医学史、医療倫理、そして宗教』 本願寺出版社
・澤村伊智 著 『邪教の子』  文藝春秋社
・加藤登紀子 著 『哲さんの声が聞こえる』 合同出版
・江田智昭 著 『お寺の掲示板 諸法無我』 新潮社
・ひろさちや 著 『親鸞を生きる』 佼成出版社
・宮家準 著 『修験道 日本の諸宗教との習合』 春秋社
・鎌田宗雲 著 『「御絵伝」の絵解き』 永田文昌堂
・延塚知道 著 『高僧和讃講義(四)―源信・源空―』 方丈堂出版
・守中高明 著 『浄土の哲学 念仏・衆生・大慈悲心』 河出書房新社


紙面から [近現代の仏教史探訪]コーナーの書評をご紹介

 『わがいのち果てる日に 巣鴨プリズン・BC級戦犯者の記録』 田嶋隆純 編著 講談社エディトリアル

 BC級戦犯の教誨師として活動し戦犯から「巣鴨の父」と慕われた田嶋隆純(1892~1959)。真言宗豊山派僧侶で大正大学教授。国際的な密教学者である。

 昭和28年(1953)7月に本書の初版が刊行された。しかし時代が降るに連れて、その存在を知る人も少なくなった。これに注目していたのが宗教学者の山折哲雄氏であった。山折氏は田嶋の息女である澄子さんとも会い、田嶋への関心を深めていった。近年、戦犯に関する書籍の出版や監修にもあたってきた。本書でも「復刊に寄せて」と題する一文を草し、本書復刊の意義を力説している。

 本書は教誨活動を通じて戦犯死刑囚の心境を田嶋が綴り、さらに死刑囚の遺書を収載する。戦犯教誨師は今日の刑務所教誨とは異なる。判決の理不尽さから田嶋は助命嘆願運動も行った。現在では判決に教誨師が異論を挟むことはない。

 戦犯裁判の理不尽さは、例えば7人が刑死した新潟の直江津俘虜収容所のケースがある。田嶋は「新潟の田舎で純朴な貧しい生活を送っていたこの人達は、召集で戦地に狩り出された揚句、戦傷の身体を故郷に持ち帰った来たのである」と記す。戦傷軍人が収容所管理のため軍属として再召集され、戦犯とされたのである。「こうした気の毒な犠牲者が絞首台上に流した数知れぬ血潮の痕を、私達はいかに眺めるべきだあろうか」と嘆きつつ、自身に言い聞かせるかのように述べる。田嶋は戦犯裁判のおかしさ、占領下で何もできない歯がゆさをもっとも実感した一人であろう。

 敵飛行士処刑の責任はすべて自分自身にあると言って、裁判を法戦と位置づけたのが元陸軍中将の岡田資である。そのためか、部下はだれも死刑とならなかった。岡田は日蓮信奉者として知られ、「氏の死刑囚棟での明け暮れは、ただ仏道精進の一途に尽きていた」と田嶋も一目置いていた。こうした一次証言は貴重である。(四六判・364頁・価1870円)


『近代東アジアと日本文化』 野世英水 加藤斗規 編  銀河書籍

 西本願寺22世法主大谷光瑞の研究で知られる柴田幹雄氏がこの春で新潟大学を退官。それを記念して近代史や近代仏教研究、東アジア研究者ら26人が参画して編まれたのが本書である。

 第1部「近現代東アジアと仏教」(11編)、第2部「近代東アジアと日本」(5編)、第3部「留学生史および留学生教育の諸相」(6編)、第4部「東アジア文化の諸相」(3編)からなる。

 柴田氏は「『福井日記』に見る大谷光瑞の樺太行きについて」を執筆。西本願寺の樺太布教の全体像を押さえたうえで、随行員である福井瑞華(三重県法盛寺)の日記(明治39年)から、光瑞の足取りや面会者、儀式執行などを確認。そこから樺太布教は「在来の門信徒を追っていく布教形態ではなく、国家のためであり、帝国日本とともにあり、植民地開発政策と歩調を合わせて展開されていった」と論述する。

 中台関係をテーマにした「紛争解決における仏教の方法論―中台関係を事例に」は台湾出身の陳柏于氏の論考。中国と台湾では、人間(じんかん)仏教(≒社会参加仏教)への関心が高く、これを実践している台湾の慈済会は中国本土でも活動している。それは宗教色を薄めたものらしい。中国の宗教政策を理解する上でも興味深い。(A5判・610頁・価6600円


 『富士川游の世界 医学史、医療倫理、そして宗教』 田畑正久 桑原正彦 編 本願寺出版社

 日本の医学の黎明期に「仏教と医療の協働」を先見の明をもって発信し、激動の時代を駆け抜けた医師富士川游(1865~1940)を顕彰する本書。仏教と医療の協力関係の構築を目指す浄土真宗本願寺派の「西本願寺 医師の会」発起人の田畑正久氏ら執筆陣が、富士川の希求した世界の意義に光を当てる。

 富士川は慶應元年に生まれ、明治・大正・昭和の激動期、西洋医学導入期でもある時代に生きた医師である。日本医師会や内科学会など現在まで続く各種学会の源流を提唱するなど重要な事績を残した。生まれ育ったのは浄土真宗の土徳の地・広島。沁みついた念仏の教えによって、人生の後半になると「親鸞上人賛仰会」を組織したほか、「新撰妙好人伝」「医学と宗教」など多くの著作を執筆し、仏教と医療の協働を訴え続けた。医学界だけでなく、仏教界にも大きな足跡を残したが、当時その願いは注目されなかった。

 田畑氏は、富士川が臨床現場で言っていたという「病気を診るのではなく、病人を診ましょう」との全人的医療を象徴する言葉を引きつつ、顕彰の意義をこう話す。「高齢社会を迎えた現在の日本(そして世界)の医療現場において、富士川は西洋医学を受け入れる黎明期に、全ての人(患者、家族、そして医療者)の救いを実現する浄土の教えを先見の明をもって願い、発信した」

 日本医師会名誉会長の横倉義武氏がまえがきを寄せ、田畑氏のほか桑原正彦氏、富士川義之氏(富士川の孫)、松田正典氏、佐々木秀美氏、栗田正弘氏、土屋久氏が筆を執る。(B6判・236頁・価1760円)