上田二郎提言① of weekly bukkyo-times website ver 2.3

社会保障費にどう対応?宗教法人と厚生年金(1/3)
―上田二郎

 日本年金機構が寺院(宗教法人)を事業所とみなして厚生年金加入を促進している件。厚生労働省年金局は全日本仏教会の申し入れをうけて一時停止した。宗教法人への厚生年金加入の可能性を以前から指摘していた元マルサで僧侶・税理士の上田二郎氏に寄稿頂いた。(「週刊仏教タイムス」2015年9月3日号・10日号・17日号に連載)

仏教界に激震? しかし、一般人の目線からは、いまさら何を…

 《「お坊さん、厚生年金の加入は義務?定年ないと困惑」主要な教団などでつくる全日本仏教会(全日仏)と日本年金機構が、寺のお坊さんの厚生年金に加入する、しないをめぐって話し合いを続けている。議論は平行線のままだが、事情を調べてみると、お坊さん特有の働き方が問題の根っこにあるようだ。
 平成27年5月21日「朝日新聞」》

全仏2.JPG全日本仏教会(東京・芝公園) 記事は一定の年齢に達すると退職するサラリーマンと違い、定年がない僧侶の働き方に配慮して比較的好意的に報じています。確かに僧侶には定年がないため、年収に応じて年金が減額される厚生年金の仕組みになじまないとする考え方に理解できない訳ではありません。

 一方、全日仏は「厚生年金に一度入れば戻ることができないため、慎重に対応する必要がある。他の地域でも起こってくる問題であり、会としてきちんとした取り組みをしていきたい」と語り、顧問弁護士は「住職は(代表)役員であり従業員ではない」などと指摘し、厚生年金への加入義務に疑義を呈し、全国の寺院が混乱しないように同会として対応すべきだとアドバイスしたと報じました。

 しかし、これらの主張に対して社会からは「いまさら何を…」といった意見や、「いったい、いつの時代の話をしているのか? 加入義務を知りながら逃れていて、いまさら疑義を呈するとは、あきれた対応だ」といった声が聞こえてきています。

 少なくとも全日仏は平成3年5月の会報で「厚生省の方針で、平成元年の4月から、全てのお寺(法人)が厚生年金へ切り替えるよう指導が行われましたが、これはあまり進んでいないようです。理由は多くのお寺でメリットが感じられないこと、また手続きが面倒なせいだと思います」と報じています。会報を読む限り、全日仏は厚生年金の加入義務を認識しているはずで、知らなかったでは済まされない問題です。そもそも加入は義務であって個々の事業者が選択できる問題ではありません。

 加入を放置した責任は仏教界か? それとも日本年金機構(旧社会保険庁)か?

 いままで日本年金機構は未加入問題について真剣に対応してきていません。正確に表現すれば組織として未加入業者を見つけ出す努力や、加入させる努力を怠っていたと言わざるを得ません。そもそも日本年金機構は厚生年金加入事業者のデータを管理し、保険料を積み立てていますが、未加入事業者のデータは保有していません。厚生年金の加入期間に応じて支給するため、加入期間の満たない者には手厚い年金を支給しないだけの話です。

 リサーチ力も、たまたま近くの会社の加入状況を調べてみたら未加入だった程度で、例え未加入事業者を発見しても電話で加入を督促する程度の対応しかしないため、数年間無視して逃れる事業者がほとんどです。

《厚生年金、加入逃れ阻止 政府 納税情報で特定 政府は厚生年金に入っていない中小零細企業など約80万社(事業所)を来年度から特定し加入させる方針だ。国税庁が保有する企業情報をもとに厚生年金に加入していない企業を調べ、日本年金機構が加入を求める。応じない場合は法的措置で強制加入させる。加入逃れを放置すれば、きちんと保険料を払っている企業や働く人の不満が強まり、年金への信頼が揺らぎかねないと判断した》

 厚生年金加入逃れ問題をクローズアップしたのが、平成26年7月に「日本経済新聞」が報じたこの記事です。

 記事は国税庁の管理する源泉徴収データ(250万事業所)と日本年金機構が管理するデータ(170万事業所)を照合し、差引80万事業所のうちから未加入業者を特定するというものです。しかし、国税の経験者から言わせれば、源泉徴収データを確認しても未加入業者は浮かび上がりません。

 なぜなら国税のデータは、事業者が支払った給与や賞与の支払い年月、人員、支給総額、源泉徴収税額を管理しているに過ぎません。つまり、国税のデータだけでは事業者が厚生年金に加入しているかどうかは分からず、結局、未加入80万事業所の全てに個別調査をしなければなりません。

 しかし、マイナンバーが導入されれば、源泉徴収票に個人番号と共に支払った事業者の法人番号が記載されるため、事業者が厚生年金に加入しているかどうかが一目瞭然となります。

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