共生特集2022

2022/9/15-22日合併号 共生特集 SDGsは「現代版アヘン」か? 『人新世の「資本論」』著者 斎藤幸平氏インタビュー


 資本主義によって地球環境は危殆に瀕している。2021年の新書大賞を受賞した『人新世の「資本論」』(集英社新書)はこの問題を掘り下げ、脱成長経済を提起した。人新世とは「人類が地球を破壊しつくす時代」のことだ。一方でSDGs(持続可能な開発目標)に対して痛烈な批判を加えている。著者、斎藤幸平氏(東京大学大学院総合文化研究科准教授)にインタビューした。(構成/編集部)
  
 ――仏教界、宗教界ではSDGsの17目標すべてとは行きませんが、多様な活動がなされています。しかし著書で、SDGsは「現代版『大衆のアヘン』」と批判しています。

 斎藤 SDGsが企業のアリバイ作りに使われたりしています。海外ではグリーン・ウオッシュという言い方をしますが、要するに環境に優しいと謳いながら、実際には見せかけだったりで、EU(ヨーロッパ連合)では、「環境に優しい」という言葉を使ってはいけないという議論もなされるようになりました。要するに環境に優しいものなんてないんです。私たちは何かを作るとすると必ず資源を使う。だから企業の「環境に優しい」表現自体が、すでにウオッシュ(配慮しているように見せかけていること)なんです。

 日本で特徴的なのは、SDGsという言葉が流行ったことです。SDGsは国連で採択された世界的な課題です。日本の場合、2つ問題があって、企業がやっているふりをしながら実質的には内容がない状態が続いている。もう一つは、人権やジェンダーなどを含んだ概念であるにもかかわらず、環境問題に矮小化されてしまっていることです。かつてマルクスが宗教はアヘンであると批判したわけですが、それに倣って現実を直視しないで、免罪符的にSDGsを利用している。これは見直さなければならないと思ったのです。

 ――SDGsの理念「誰一人取り残さない」に共感する宗教者は多い。

 斎藤 そうだと思います。寺院は従来から人権や貧困など程度の差はあれ、取り組んできていると思う。けれども気候変動に取り組んできたイメージは私にはなかったので、包括的な運動になればと期待はしています。

 宗教との関連で言えば、明治神宮外苑の樹を伐採して商業施設を建てるという計画がありますね。SDGsを掲げる企業や団体がこれに関わっているはずで、これを行うのはSDGsの本質を見失っているのではないかと考えざるを得ない。つまりグリーン・ウオッシュであって、SDGsが利益のための道具になっている。SDGsというのはゴール(目標)なのに、経済成長の手段にしてしまっている。宗教がそうなっているとは思いませんが、利用される危険性はあるでしょう。もともと宗教や教育は、利益や成長を目指しているわけではないので、むしろ、強欲資本主義の動きを一緒に批判してほしい。

 ――現在、GDP(国内総生産)が国際的な経済指標となっています。著書ではGDPの増大ではなく脱成長を訴えています。

 斎藤 GDPは100年ぐらい前にサイモン・クズネッツという経済学者たちが中心になって提出された概念です。アメリカ政府に依頼され、それこそロシアとかイギリスよりも優れているんだという客観的指標としてGDPが生み出された。ですから多分に政治的です。クズネッツは、例えば広告とか戦争といったものはGDPに含めるべきではないと主張していました。広告は本来必要ではないし、破壊活動である戦争を経済活動に換算するのはおかしいというわけです。ところがアメリカ政府にとっては軍事費を含めることが目的にかなっていた。自然を破壊することも、戦争も、日頃の悪い食生活が原因で病院に通うことも、GDPを増やすのです。

 GDPを増やしていくことが社会繁栄の必須条件であるという考え方は、21世紀に入り地球環境が過酷な状況となった現代では、もはや適さないと多くの人たちが疑問を抱くようになりました。GDPに換算されない、健康や幸福度、心の豊かさ、社会の持続可能性といった価値を重視するような社会や暮らし方に切り替えることは、これから絶対必要になってきます。

実際、この30年間で日本の格差は広がり、暮らしは豊かにならず、むしろ幸福度は下がっています。若者たちの意識調査でも“将来に希望を持てません”と答える社会は、明らかにおかしい。私たちはGDP成長に依存するだけではない社会のあり方をみつける試みをもっともっとしていくべきではないでしょうか。

 ――『人新世―』が注目された背景には新型コロナの感染拡大もありました。

 斎藤 2020年、私たちの生活は大幅にスローダウンしました。今までのやり方では感染拡大を抑えられないため営業自粛や時短が行われ、出張や飲み会が激減した。ものを買わなくなり、テレワークが普及した。これは地球環境にとって良いことです。2020年は2019年と比較すると、世界で二酸化炭素の排出量が6%ぐらい減っています。その時に話題になりましたが、大気汚染がひどかったインドや中国では、ヒマラヤが見えるようになった。自然にとっては、経済活動のスローダウンが非常にポジティブだったのです。

 逆に言うと、今回のパンデミックの背景には間違いなくグローバル資本主義がありました。資源の乱開発もそうだし、ウイルスが瞬時に広がったのもグローバル化の影響です。こうしたあり方を私は「人新世」と呼んでいるわけです。しかし2021年以降は元に戻ってしまった。このままいけば、地球環境は危機的な状況になってしまう。

 ――仏教や宗教は何ができますか。

 斎藤 先ほども触れましたが、仏教や宗教は本来、成長型とは全然違う理念に基づいて、しかも伝統という形で何百年、何千年の単位で残ってきた。その点では持続可能なのです。つまり成長に依存せずとも持続可能なあり方をしているのです。私はマルクス研究者として古典を重視します。古典は何百年と読み継がれ、その中には、資本主義の価値観や技術とは異なる普遍性や指針みたいなものがあるわけで、だからこそ、マルクスを読んでいるのです。同じように宗教も時代を超えた普遍性、かつ成長に依存しない持続可能性があります。そこに期待するところはあります。

 今年はローマクラブが発表した『成長の限界』から50年です。また「仏教経済学」を盛り込んだシューマッハーの『スモール・イズ・ビューティフル』はその翌年の刊行です。当時あった危機感は、1980年代以降、グローバル化の中で技術革新が進み、東西冷戦構造が終わって新しいマーケットが開けると労働力や資源が出てきた。そこで地球はまだまだいけるぞとなって時間稼ぎとなった。「成長の限界」議論が一時的に後退したけれども、危機が去ったわけではありません。『スモール―』が刊行されてから来年は50年にあたります。この機会に仏教経済学の理念が再評価されることを願っています。(了)

 さいとう・こうへい/1987年生まれ。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。専門は経済思想、社会思想。大阪市立大学大学院准教授を経て今年4月から東京大学大学院総合文化研究科准教授。“Karl Marx's Ecosocialism: Capital, Nature, and the Unfinished Critique of Political Economy”(邦訳『大洪水の前に』)は権威あるドイッチャー記念賞を日本人初、歴代最年少で受賞。浄土宗系の芝学園(東京都港区)の卒業生。

2022/9/15-22日合併号 共生特集 おてらおむつプロジェクト 介護者カフェから展開 浄土宗安福寺


おむつを必要な人や施設に支援する大﨑住職 大阪府柏原市の浄土宗安福寺の大﨑信人住職(46)は、肉親の介護をする人や終えた人たちが悩みをや経験を話し合い、複雑な気持ちを分かち合う場「介護者カフェ」を開き、その中で「おてらおむつプロジェクト」も行っている。介護用を終えた人などから不要になったおむつを集め、必要としてくれる施設や個人に受け渡すもので、類例のないユニークな取り組みだ。

 浄土宗宗務庁が、お寺で「介護者カフェ」を開くための講習会をスタートしたのは2020年。大﨑住職も同年に受講した。「自分はまだまだ両親も元気で、介護経験もない、特別な資格を持っているわけでもない」と、ごく普通の僧侶だったと言う大﨑住職。しかし檀家の家に月参りに行く中で、元気だったお年寄りが施設に入ったりする変化も如実に感じていたという。さらに受講すると「父親を、つまり師僧をですが、介護する中で辛くなってしまったり、きつく当たってしまうような、緊急性の高い僧侶の悩みも聞きました」と振り返る。悩んでいる人が周りに一人でもいるなら、に場所を提供して耳を傾けるこのカフェは自分でもできることじゃないか、そう思ったという。

 ある時、介護者カフェに訪れた檀家から「母親の生前に使っていた介護用おむつがたくさん残っているので、なにか活用できる所があれば役に立ててほしい」との申し出があった。介護用おむつは、子ども用おむつと違って「使わなくなる日」がいつ来るかわからない。また意外と値段もするもので、まとめ買いしておく介護者も多いという。そうして見送り後に介護用おむつが残されることになる。

 市内のデイサービス施設を訪問してのレクリエーション活動を始めていた大﨑住職はその施設に相談。介護用おむつの寄付は大歓迎、たとえ開封済みでも色々と利用できる、という返事だった。これに後押しされ、おてらおむつプロジェクトのスタートとなった。市の社会福祉協議会や、隣の八尾市の介護用品ショップとの連携も生まれた。

 「介護を終えられた方の中にも、こうして何か寄付をしたり、自分の経験から他人の役に立ちたいと思う人がいらっしゃいます。ひょっとしたらそれがその人にとってのグリーフケアになるのかもしれません」と大﨑住職は話す。

 最近、フードパントリー事業も始めた。「介護者カフェに来てくれた人が、食料品や日用品を寄付してくれるんです」とのこと。「自分でもできることじゃないか」そう思って一歩を踏み出した僧侶の思いが地域に広がり福祉の縁を紡いでいく。

2022/9/15-22日合併号 共生特集 生長の家のウクライナ支援「P4U」 全国で国旗の日パレード


 8月下旬に各地で行われた国旗パレード生長の家(国際本部=山梨県北杜市、谷口雅宣総裁)はウクライナ支援イベント「ピースフォーウクライナ(P4U)ウクライナに平和を」を3月から行っている。「人類の光明化」を目的に、戦争のない世界の実現を目指す同教団は、「すべての人間は神の子である」という信仰の広まりにより真の国際平和が実現するとの信条から、ロシアによる違法な武力攻撃は侵略戦争にあたると反対の立場を示している。

 支援活動は国際人道支援団体への「募金」、ウクライナ国旗の色を使った物品を手作りして発表する「友愛の情の表現」、ウクライナの文化や民俗、産業などを学び活動につなげる「学習と追体験」の3本柱で進められ、フェイスブックの公開グループ「P4U」で信者らの取り組みが報告・共有されている。ウクライナ国旗をつけての自転車通勤、ウクライナの歴史や文化を学ぶ書籍紹介、ウクライナ刺繍などの工芸品づくり、「一汁一飯」で浮いた食事代の募金など。低炭素のライフスタイル普及を進める教団の信仰生活にも連関する活動が各地で行われ、SNSを通じてその思いをリレー形式でつないでいる。P4Uのロゴマークも作成され、各イベントで使用されている。

 3月22日から5月末までの第一次募金には7226万1313円が寄せられ、NPO国際連合世界食糧計画(WFP)協会に寄託。これに先行して生長の家国際本部が3月末に1千万円を寄付した。6月1日からの第二次募金は国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、(公財)日本ユニセフ協会、NPO日本ウクライナ友好協会(KRAIANY)に贈る予定だ。

 ウクライナの国旗の日にあたる8月23日からはカナダと全国約100カ所で信徒たちのグループが「ウクライナ国旗の日パレード」を行い、街頭募金も実施。長引く軍事侵攻でウクライナへの関心が薄れつつある現状を憂慮し、街頭パレードをP4Uの第2次スタートと位置付けている。

 P4Uのロゴマークさらに9月27日には「世界平和六章経連続リレー読誦」を行う。日本時間の午前9時から午後9時まで、信仰の基礎である「大調和の神示」、経本「万物調和六章経」「人類同胞大調和六章経」に収録された祈りの言葉を30人のメンバーが交代で読誦し、フェイスブックグループ「P4U」で配信。全国6カ所の本部直轄練成道場でも集団読誦する。リレー読誦はロシアの軍事侵攻に加え、世界で起きる地球温暖化による気候変動の根本が「人間の欲望という点で同じで、相互に悪影響を与え問題を深刻化」させているとし、一日も早い戦争終結と、「神・自然・人間の大調和の実現」を祈る。

 国葬反対のメッセージ

 9月27日は創始者・谷口雅春大聖師に「大調和の神示」が天降った日であり、奇しくも安倍晋三元総理大臣の国葬が行われる日にあたる。生長の家は安倍政権による立憲主義を軽視した強引な政治運営を問題視し、国政選挙の際に「与党を支持しない」との声明を出してきた。多額の税金を投入して行われる国葬にも反対の立場を示し、祈りの宗教行事を通して「大調和」へと心を振り向ける全国的な取り組みが、信仰の初心に帰るだけでなく「国葬反対」への「明確なメッセージ」とも明言している。

2022/9/15-22日合併号 共生特集 日本禁煙学会がポケットブック刊行 “卒煙”はSDGs推進 医僧・来馬明規住職訴える


SDGsにはタバコ規制が含まれていると説くポケットブック “とげぬき地蔵尊”で知られる東京・巣鴨の曹洞宗髙岩寺。参拝者で賑わう境内の各所には「全域禁煙」の垂れ幕が掲示されている。内科医でもある来馬明規住職は15年以上、禁煙運動に取り組む。来馬住職が監事を務める日本禁煙学会(作田学理事長)は、今春「SDGsポケットブック」を刊行した。「禁煙はSDGsの実践であり、タバコはSDGsの理念に背く」と来馬住職は言う。

 既知の通りSDGs(持続可能な開発目標)には17の目標と169のゴールがある。しかし、第3の開発目標「すべての人に健康と福祉を」のゴール3・aに「すべての国々で適切にタバコ規制に関する世界保健機関枠組条約(FCTC)の実施を強化する」と明記されていることは知られていない。タバコ規制こそSDGsの根幹であることが「ポケットブック」に詳述されている。

 そもそもタバコ産業自体がSDGsに違背すると来馬住職は指摘する。「アフリカ諸国などの葉タバコ生産国では経済的な奴隷制度があり、労働搾取や小児労働、子どもを含む農民の職業性ニコチン中毒が横行しています。葉タバコ乾燥の燃料調達のために森林が伐採され、自然破壊が広がっています」

 すなわち原料の生産、製品の製造消費、受動喫煙を含む喫煙の健康被害、吸い殻ポイ捨てで発生するマイクロプラスチックの環境汚染にいたる全ての段階で「人権、福祉、環境を脅かしている」(来馬住職)。ポケットブックも「タバコ製品の製造と消費はSDGsのすべての開発目標を妨害」と結論づけている。

 来馬住職は「禁煙勧奨と実践は有力なSDGs推進事業です。将来にわたって『誰一人取り残さない』ためにも、個人の“卒煙”の積み重ねが大きなSDGs推進につながります」と訴える。

 ブックレットは百円で学会ホームページ上からも取得可能。問い合わせは日本禁煙学会事務局(電話03―5360―8233 ゴミむなしヤニ散々)へ。