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2024/10/3
宗門系大学サバイバル 種智院大学編 村主康瑞学長に聞く 寺リーマン 会計できる真言僧育成
真言宗各派の総大本山18カ寺を経営母体とする種智院大学(京都市伏見区)は、弘法大師が1200年前に開いた綜藝種智院の伝統を受け継ぐことから、「日本最古の私学」とも称される。人文学部に仏教学科(入学定員15人)と社会福祉学科(同)を設置し、真言密教の事教二相に精通した僧侶と密教福祉を実践する人材を輩出している。村主康瑞学長はこれからの僧侶像について、「事教二相に加え、寺院経営学を修得する必要がある」と強調。「小さくても、キラリと光る。これこそが、お大師さまが目指された宗門大学の形だと思う」と話す。
「各派18本山とその関係寺院・宗派に支えられている本学の最大の責務は、徹底した宗門教育を実施すること。『種智院大学に行きさえすれば、真言僧侶の何たるかを学ぶことができる』。こうした宗内の期待に応え、弘法大師から続く教相(哲学と理論)と事相(実践)の血脈を受け継いでいくのが本学の使命だ」
仏教学科の入学者はほぼ各派の寺院子弟で、在家出身者は2~3人。女子も3人前後いる。「定年退職後に僧侶になるために入学する人もおり、若い学生の刺激になっている」。他大学を卒業してからの3年次編入学が、毎年10人くらい来るという。入学定員15人は毎年充足しているが、日本人は10人程。5人前後は中国からの留学生だ。
真言僧になるための加行(けぎょう)は、各派本山の修行道場と単位認定などで連携して実施。学生は休学せずに所属本山で行に入ることができる。「この制度は本学が最初。当初は文科省から『大学教育を外注していないか』と指摘されたが、正当な仏教教育だと説明した上で本学の教員が行の場に出向する形にした」。大学の加行道場も西大寺(奈良市)を借りて、春夏の長期休暇中に計約90日間開設。主に女子や在家の学生、留学生が入行し、大学から各派講師を派遣する。
天台宗の叡山学院(滋賀県大津市)とも事相面で教育交流。声明公演の共催など平安仏教への理解を深めている。
少子化の中で、中国の留学生が重要に。「7年程前に世界仏教徒大会があり、中国仏教界の要人に『中国に唐の時代の仏教が正しい形で伝わっていない。それを戻したい』と相談した。それが契機になり、留学生を送ってくれるようになった。1年間、日本語を学んでから来日するが、本学でも日本語講座を用意している」
「寺(てら)リーマン」を育成
村主学長は、「今、本学で力を入れているのは寺院経営学の授業で、私が講義している。これからのお寺は、経営理論がなかったら成り立たない。自坊の経営状態の洗い出しや周辺環境の把握、将来の展望など、それらを見極める力が必要だ」と力説。元TBSアナウンサーによる講義で法話とは違う話し方を学んだり、会計士による寺院会計、京都府から行政の専門家や弁護士を招いての宗教法人法の講座も開いたりしているという。
「お布施を頂いたら寺院会計に入れて、そこから源泉徴収して給料をもらう。丼勘定では、もう世の中に通じない。檀家からお布施をもらった時、それを相手がどういう気持ちで出しているか。サラリーマンが1万円稼ぐのは大変だ。ましてや年金生活者のお布施は貴重だ。そういうことが分かる僧侶を育てたい。私はそうした人材を、会計がしっかりできる僧侶という意味で『寺リーマン』と呼んでいる」(続きは紙面でご覧ください)
2024/10/3
能登半島豪雨災害 寺族を防災ヘリで救出(高野山)珠洲市の女性僧侶死亡(大谷派)
元旦の大震災に続いて今度は線状降水帯が9月21日に発生し石川県能登半島の被災地を襲った。豪雨は23日まで続き、広範囲に被害を及ぼしている。
【高野山真言宗】
大地震で全38カ寺が被災した石川県北部の能登宗務支所では、川元祐慶支所長(穴水町・明泉寺)が全寺院の安否を確認。全員の無事が判明した(9月26日現在)。金沢市や小松市などで避難生活を続けている住職もいることから、「寺の被害の本格的な調査はこれから」。川元支所長は、「寺の復旧自体すら始まっていないのに、この豪雨でさらに輪をかけて復興が遠のいた…」と嘆息した。
土砂崩れで庫裏の1階が倒壊し22時間閉じ込められた後に防災ヘリで22日に救出された岩倉寺(輪島市町野町・一二三秀仁住職)の寺族(住職母・良子さん)は「1週間ほどの入院」。川元支所長は、「無事だったのは奇跡。元旦の地震で助かった命だ。救出が間に合い、本当に良かった」と安堵した。
第1次調査で以下の状況を把握。「山奥の入り組んだところにある」A寺は「道路寸断だが、敷地外の車庫まで徒歩で行けば外出は可能。通電しているが断水」。B寺では「本堂に泥水が流入し、本堂のみ電気不可。ボランティアを求めている」。C寺は「家屋に床下浸水。周辺に流木が散乱、水が濁り使用不可。水の配給はある」。D寺は「停電・断水」。E寺は「本堂、納屋横の崖崩れで泥水流入。納屋の使用不可」。
川元支所長は、「元旦の地震で寺の裏山が崩れたが、さらに今回の豪雨でその時の土砂の上に新しい土砂が崩れてきたケースが多いようだ。経験したことがない大雨だった」と説明。「通水したばかりなのに断水した地域や、井戸が濁り使えなくなった所もある」とし、「明日(27日)、宗務所の担当者と被災寺院を回り状況を確認した上で、今後のことを話し合う」とした。
【真宗大谷派】
石川県珠洲市大谷町の浄正寺で24日午後3時、山からの流出土砂で屋根まで埋まった寺院兼庫裏から女性僧侶が発見され、死亡が確認された。同寺より高い場所にあって隣り合う廣榮寺は、元日の地震で発生した土砂で倒壊。住職が亡くなり、1月28日に発見された。
6月に被災地を回り両寺も訪れていた僧侶の一人は、「現場は谷になっていて、廣榮寺の本堂は土砂に埋もれていた。凄まじい土砂の量だった。その下側に浄正寺があり、間に用水路のような小さな川が流れていた。今回の豪雨で、さらに山から谷筋に大量の土砂が押し寄せたのだろう」と悲痛の念を示した。
2024/10/3
佛教大学 次期学長に佐藤和順教授
佐藤次期学長 佛教大学(京都市北区)は9月25日、来年3月末に任期満了となる伊藤真宏学長の後任の学長選挙を実施し、第14代学長に佐藤和順(さとう・かずゆき)教育学部教授・幼児教育学科長を選出した。任期は2025年4月1日から29年3月末までの4年間。
佐藤次期学長は1965年10月生まれの58歳。兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科博士課程修了。博士(学校教育学)。兵庫大学短期大学部助教授、就実大学教授、岡山県立大学教授を経て2019年4月から佛大教授、岡山県大名誉教授。20年4月から佛大附属幼稚園園長。専門は幼児教育・保育で、『保育者の働き方改革』などの著作がある。自坊は広島県福山市の浄土宗定福寺。
2024/10/3
袴田事件 袴田さん無罪判決に思う 生命山シュバイツァー寺 古川龍樹代表
9月26日、静岡地裁で袴田巌さん(88)に無罪判決が出された。判決では捜査機関の証拠捏造まで指摘している。自白も強要されたもので、袴田さんは裁判で無罪を主張したきたが、死刑判決が確定。重い扉である再審によって、58年を経て、ようやく無罪となった。
同様に冤罪を訴えながら刑死した福岡事件の西武雄さんの再審運動に、父の古川泰龍師以来、2代にわたって取り組んでいる生命山シュバイツァー寺(熊本県玉名市)の古川龍樹代表にコメントいただいた。
…
袴田巌さんの無罪判決、おめでとうございます。姉ひで子さんとも長い付き合いになりますが、判決の日の今まで見たことのない満面の笑顔は、私にも感慨深いものでした。また、長い間活動継続されてきた支援者の方たちへ、心からお祝い申し上げます。
それにしても判決は、司法の多くの問題を浮き彫りにしました。この後に及んで控訴できるなど、再審のハードルを高くしてきた問題だらけの刑事訴訟法(再審法含む)はすぐに改正が必要です。長い年月を費やした上、人生を狂わせた責任は誰がとるのか…。またこれで冤罪死刑囚5人が死刑台から生還したのに、死刑は廃止しないのでしょうか。
国は、結果全員助かったのだから、再審法も死刑もそのままに、と何ごともなかったかのようにやり過ごすかもしれません。
しかし「死人に口なし」、「福岡事件」の西武雄さんのように、冤罪死刑囚本人が処刑されれば、遺族などに請求権は限られ、名誉回復さえも叶わないなど、人権軽視の現行法は問題が山積みなのです。そしてこれらを放置してきた責任は、司法のみならず、私たち自身にもあるのではないでしょうか。「万人は一人のために」、「いのち」の繋がりに目覚めなければ、過ちは繰返されます。
来年は西武雄さん処刑後50年を迎えます。彼の記録を元に、冤罪死刑囚の苦しみや死刑執行の異常さなどを公にしたい、そして再審法改正、死刑廃止に繋げたい。袴田さんの無罪判決を無駄にしないためにも休む時間はないのです。
2024/9/26
日蓮宗総本山身延山久遠寺 共栄運動5周年 自利利他の精進表明 法華経の聖地から理念発信
共栄社会の実現を願い唱題する持田法主 日蓮宗総本山身延山久遠寺(山梨県南巨摩郡身延町、持田日勇法主)は16日、同寺本堂で「共栄運動発足五周年記念大会」を執り行った。法華経の共生、共和の精神を実践し共栄社会を実現する信仰運動が5周年を迎え、持田法主は「寛容と和合の精神を発揮していく」と述べ、自利利他の精進を誓った。
同寺の信仰運動「共栄運動」は「共に生き 共に栄える」をスローガンに令和元年(2019)に発足。寺院を取り巻く外部環境に対応し、法華経に説かれた六波羅密の菩薩道を実践することで世界全体が共に栄える社会を目指す実践運動として始まった。(続きは紙面でご覧ください)
2024/9/26
曹洞宗 内局部長 辞任の意向示す 大和証券業務委託 承認得ない契約を問題視
曹洞宗が東京グランドホテル(港区芝)として運用するソートービルなど宗門所有の不動産の運営を巡り、服部秀世宗務総長が内局の承認を得ずに大和証券と業務委託契約を結んでいた問題を受け、内局の各部長が辞任の意向を示していることが分かった。任期4年の折り返しに伴う10月の内局改造を目前に、宗政は混乱に陥っている。
契約は大和証券が不動産の再開発計画に協力する内容で、昨年8月に締結。契約にあたっては一部の部長にのみ知らされ、庁議(責任役員会)の承認を得ずに進められていたことが8月下旬に明らかになった。
これを受け、首班の大本山永平寺系会派・有道会側を含め、内局の各部長が辞任の意向を表明。大本山總持寺系会派・總和会側では、三𠮷由之会長が留めている状況という。
一方で服部総長から諮問を受け、昨年からソートービルの運営方針を検討してきた総合特別審議会にも契約の事実が報告されていなかったことから、関係する宗議会議員らも問題視。6月の宗議会では中村見自議員がホテル運営の方針決定に至る経緯を質し、「宗議会でわれわれ議員は一度もゴーサインを出していない」「その都度合意形成を図り、検討と協議を重ね、丁寧に宗議会議員に議決を求めるべき」と訴えたが、服部総長は答弁で契約のことには言及しなかった。
一部の議員からは「議会軽視だ」と憤りの声が上がっている。9月18日に宗務庁で両会派議員総会が非公開で開かれ、服部総長はこの問題に関して説明したと見られる。
ホテル運営の委託候補となった企業も大和証券を通じて決定している。服部総長は内局改造前の第一次内局で結論を出すとしていたが、一連の計画は立ち消えとなるのか注目される。
2024/9/26
佛教大 障がい超えスポーツ共生 車いすバスケ大会初出場
シュートを決めた藤原さん(中央) 障がいの有無に関わらず誰もが主役になれるパラスポーツを盛り上げたい―そんな思いから佛教大学(京都市北区)に7月、バスケットボール部内に車いすバスケ部門が誕生した。今月15日には大阪府枚方市の渚市民体育館で開催された、大学対抗車いすバスケ大会「ビリケンカップ」に出場し、2試合を敢闘した。
車いすバスケ部門は、教育学部4年生の藤原芽花さんが中心になり設立された。藤原さんはハンドボール部に所属していたが2年生の時に練習中に転倒。手術後に不随意運動という症状を抱え、車いす生活となった。そこでパラスポーツに取り組むようになり、車いすハンドボール(日本代表)、パラアイスホッケー(世界大会出場)、それに車いすバスケの三刀流で活躍する。
車いすバスケは選手たちが車いすに乗る以外、大きなルールは通常のバスケットボールと同じ。ガシンと車いす同士がぶつかり合い、時にひっくり返ってしまうこともあるが、そこは敵味方関係なく選手同士で起き上がるのを助け合うフェアプレイだ。
今回は佛教大学からは藤原さんを含め、学生・教職員の6人が参加。大阪体育大学との混成チームだが息のあったプレイに。藤原さんはここぞという時にシュートを決め、インターバル中にはチームメイトを力づける役割も。
初戦相手の宝塚医療大学のチームには、車いすバスケ日本代表の村上直広選手もおり、40対28で佛大チームが黒星。藤原さんは「本気で戦ってもらった」と悔しそうだが爽やかな笑顔。藍野大学との2戦目では前半は佛大チームが優勢に展開を繰り広げるが、後半、藍大も怒涛の追い上げを見せ、大激戦に。33対28で佛大チームは惜敗した。
しかしこれは、次に繋がる「価値ある負け」。藤原さんは「次は1勝します!」と、3月の次の大会への抱負を話す。大学生としてはその大会が最後。やがては日本代表に、と闘志を燃やしている。
2024/9/19
共生特集 農から考える地球環境 東京農大名誉教授・日本財団特別顧問 板垣啓四郎氏に聞く 「食・農・環境」は1本と考えよう
いたがき・けいしろう/1955年鹿児島県生まれ。東京農業大学卒業後、イギリス・レディング大学食品・農業経済学部へ客員研究員として留学。東京農業大学助教授、教授を経て、2020年に定年退職し名誉教授。その後(公財)日本財団特別顧問となり、現在に至る。専門は農業開発経済学。博士(農業経済学)。 昨年、国連のグテーレス事務総長は、地球温暖化は「地球沸騰化」になったと警告を発し対応を迫ったが、今年も異例の暑さとなった。他方でロシアとウクライナ、イスラエルとパレスチナ・ガザ地区の戦争が続いている。地球温暖化に加え、こうした戦争は世界の農業にも大きな影響を及ぼしている。全世界が約束した持続可能な開発目標(SDGs)を含めて、「農」から考える環境と平和について東京農大名誉教授の板垣啓四郎氏にインタビューした。
――今夏の暑さは地球規模のようですが、農作物にはどんな影響を与えているのでしょうか。
経済追求が土壌にしわ寄せ
板垣 地球温暖化によって、産業革命以来、平均気温は1・8℃の上昇。このままでは今世紀末には2・2℃まで上がると予測されている。
地球温暖化の影響は高緯度地方ほど大きく、赤道周辺はそうでもない。高緯度地方は世界の穀倉地帯にあたり、北半球ではカナダ、アメリカやロシア、ウクライナなど。南半球ではオーストラリアとニュージーランド。ブラジルは高緯度ではないが、農業大国。温暖化の影響で今年大洪水が発生し、天候不順が続いたため、一部の農産物が不作となった。身近な輸入品ではオレンジ果汁がブラジルから入ってこなくなった。そのためファストフード店ではオレンジジュースの販売を休止したところもある。
気候変動に加えて土壌の荒廃が起きやすくなっている。高温で風が強かったりすると農地は乾燥し劣化する。化学肥料は、速効性はあるけれども頼りすぎると農地が硬化し、土中に空気や水が入らず、表土はより一層乾燥する。禾本科作物だけでなくマメ科作物などを輪作していかないと土壌の肥沃度は回復しない。効率性や低コストといった経済性を追求した結果が、土壌にしわ寄せされているといえる。
温暖化が進めば寒冷地は暖かくなるから作物ができるという楽観論もある。ロシアが一つの事例であるが、国土の一部を除きそれほど農地は豊かでない。栽培する作物の種類が増え生育期間は延びるかもしれないが、ロシア南部では逆に高温によって不作になる可能性もある。
一方で困った問題は、肥料の原料となるカリウム、尿素、リン鉱石などがロシアに集中していることだ。ロシアは肥料を製造し輸出しているが、その原料も輸出している。肥料をつくるのに原料を融解し粉状にしなければならないが、その過程で多くのエネルギーを使う。たまたまロシアは天然ガスが豊富だからでそれができた。ところが、ロシアがウクライナと戦争したばかりに世界的に肥料の原料および肥料の輸入が制限されている。そのため肥料価格が高騰し、世界の農業に深刻な影響を及ぼしている。
「水の輸入国」日本
――かねてから「水」問題が指摘されていますが。
板垣 アメリカでは地下水の水位がどんどん下がり、汲み上げるのにコストがかかる。アメリカの穀倉地帯である中西部は主にトウモロコシや大豆、小麦などを栽培しており、またここは世界有数の肉牛飼養地帯でもある。肉牛は大量の水を必要とする。1㌔の牛肉をつくるには1万5千㍑の水が要る。飲む水のほかにエサとなる飼料の栽培にも大量の水を使う。牛は比較的体温が高いため、気温の高い状態が続くと炎症を起こしやすい。それを避けるため牛に放水したりする。これも相当な量になる。
日本にとってオーストラリアは最大の牛肉輸入国。ここでもアメリカと同様に大量の水が使われていることに変わりはない。日本は水が豊富に存在するが、世界から見れば、「水の輸入国」でもある。
――アフリカで農業開発支援プロジェクトに携わっていますが。
板垣 SDGsが掲げる17の目標の第1に掲げられているのが「貧困をなくそう」、第2が「飢餓をなくそう」。それだけ世界的に切実な目標であるが、コロナ禍の間に飢餓人口は逆に増えてしまった。飢餓というのは絶対的な栄養の不足。アフリカの場合、4人に1人が栄養不足の状態にあり、非常に緊急性を帯びている。しかも人口が現在14億弱だが、10年後には24億になる。そのときの世界人口は90億近くになる。その4分の1がアフリカの人口、さらにその4分の1が飢餓線上にあり、いかにアフリカで食料が不足しているかが分かる。
エチオピア、ソマリア、ケニア、コンゴ、カメルーン、中央アフリカ、ナイジェリア等が特に深刻で、やはり経済的に貧しい国、紛争が多い国々に顕著に現れている。最近ではフーシー派が台頭するイエメンでも食料不足が深刻です。
日本の農業分野に対する国際協力は、途上国の中でアフリカを中心に行われているが、日本のODA(政府開発援助)予算は年々減少してきている。政府予算の多くが防衛費などにまわされ、現在ではODA予算が最も多かったときの半分ぐらい。できるだけ民間セクターの力も借りて国際協力を担ってもらおう、という方向に舵をきっている。
アフリカ農業支援
アフリカの国際農業協力では、日本は4つの柱でもって進めている。1つめはコメ増産技術の向上、2つめは栄養改善、3つめは売れる農業、4つめは気候変動対策。かれらの主食はイモやトウモロコシだが、国によってはコメがだいぶ出回ってきた。コメは貯蔵が利くし、調理が簡単なので好まれている。栽培には水稲もあれば陸稲もある。しかしながら、陸稲作は収量が上がらない。日本は水稲作、陸稲作ともに技術支援してきた結果、比較的よい成果が出ており、支援している国から高い評価をいただいている。
栄養改善では、既存の作物に不足しがちなミネラルとかビタミンを含む品種を開発している。また従来の調理法では穀物や野菜などの栄養素が十分に留まらないため、栄養を保持する調理法を教え、また燃料を効率よく使うためにカマドの改良も指導している。日本で行っている食育が現地でもショクイク(Shokuiku)として受け入れられ、食生活の改善が実践されている。
売れる農業というのは、農家が自ら市場を調査して何が売れそうな農産物なのか、何が高く売れそうな農産物なのかを確かめてから、計画的に作物を栽培し販売するというものである。これまで買い手である商人の言い値に販売を任すままであったが、生産者側も交渉して価格を決められるようになり、その結果収入が増えていって農家から喜ばれている。
気候変動対策は、灌漑施設を改善して水を圃場へ安定的に供給するとともに、土壌に有機物や堆肥を投入、被覆作物を圃場に植え付けし、また輪作などの作付体系により、土壌の乾燥を防ぎ、土壌を豊かにし、さらに二酸化炭素など温室効果ガスの大気への放出を抑えるための技術支援である。
農業が環境・資源を保全
――農業と環境は密接につながっています。両立するには。
板垣 日本の食料自給率(カロリーベース)は38%とかなり低い。その一方で、食料・農産物の輸出に力を入れている。インバウンドの効果もあって日本の食事=和食に対する評価が高まり、ここを輸出に向けた商機としている。しかしながら、輸出品目は極端に片寄っている。サシの入った牛肉、ウイスキー、リンゴなどの果実、水産加工品など。言い換えれば、不足する原材料を海外から輸入し加工して輸出しているのが実態です。
栽培している作物によって異なるが、稲作就業者の平均年齢はおよそ75歳。この人たちがリタイアーしていけばはたして後継者はいるのだろうか。耕作放棄地はさらに増えていくだろう。彼らに代わって農業法人に引き継いでもらうという政府の方針はあるが、このままでは米価が低いのでコストを十分に補い切れず、収益が上がらなければ、新規の就農者も増えず法人もまた農業を諦めるかもしれない。日本人のなかには、食料は安くて当たり前という感覚がある。食料価格が少しでも上昇すればすぐに政府が悪いとする。
しかし農業(林業・水産業含む)によって、環境や資源が保全され、景観が維持され、農村の文化や伝統も守られている――というように考えなければならない。農業をコメなど農産物の量や価格だけで判断するのではなくて、農業が営まれる背後にある環境の側面にも貢献しているといったように目を向けてもらいたい。そういう観点から農業をもう一度見直し、コメや農産物の量と価格は妥当なのか、持続可能な農業で環境の保全と共生できているのか。すなわち「食・農・環境」を一本にして考えて欲しいのです。
2024/9/19
共生特集 浄土真宗本願寺派 外から見えぬ被害、未だ復興せず 能登町・松岡寺でボランティア① 門徒が活躍 本紙記者も体験
軽トラ本願寺号に廃棄家具を積む川井氏と粂氏 北陸の浄土真宗本願寺派寺院は能登半島地震で甚大な危機に陥っており、宗派の公式発表によると、8教区513カ寺(加えて直轄寺院である別院6カ寺)に被害があった。発災直後から総局の指示で状況の調査が始まった。あわせて京都の宗務所から第1次復旧支援隊が石川県に入ったのは1月4日。同月8日には金沢別院(金沢市)に「能登半島地震支援センター」(以下、センター)が設置され、本格化した。
センターは現在まで、被災寺院の整備や炊き出しといった直接支援だけでなく、全国から寄せられた物資の分配、ボランティアの受け入れなどコーディネート業務にあたっている。9月8日、記者は鳳珠郡能登町の松岡(しょうこう)寺(波佐谷真充住職)における、災害ゴミ搬出ボランティアに参加した。
前日夕方にセンターに入った。参加者は川井周裕センター長、記者、それに女性ボランティアの3人だけだという。正直、少ないと思ったが「ゴールデンウィーク以降はボランティアはずいぶん減りました。被災地の情報の報道もあまりされていませんから」と川井氏は話す。センターではボランティアのための長靴やヘルメット、手袋などが十分に用意されていた。衣服や食料などの支援物資の箱も積まれている。
ボランティアはセンターに無料で宿泊することができる(寝具を提供。風呂・食事はなし)。金沢別院も本堂や山門など被害が大きかった中で受け入れに奔走している。泊まる広間のテレビには金沢市内で行われた復興マルシェの短いニュースが映ったが、能登の様子は流れなかった。11時に消灯。
翌朝7時半に2台の車で出発した。記者の乗った車を運転したのは一般ボランティアの粂亜希子氏。愛知県西尾市の教蓮寺の門徒で、この日で被災地入りは13回目。「困っている人が周りにいたらやっぱり助けるんじゃない?自分もいつ困るかわからないんだよ…お寺の日曜学校で、どうしてボランティアするの?と聞いてきた子にはそんなことを言いましたね」と話す。のと里山海道(高速道路)を北上し能登町へ。約130キロ約2時間半の道のりだ。「これでもずいぶん早く着くようになったんですよ」と粂氏。冬から春、道が悪かった時期には4時間半かかったため、朝5時半に出発したのだという。ちなみに、途中のパーキングエリアには本願寺派門徒が出している特産品の店もあり、帰り道に「爆買い」で支援することもあると教えてくれた。(続きは紙面でご覧ください)
2024/9/19
共生特集 立正佼成会 月に一度のあおぞら図書 関係人口で地域盛り立ても
図書館ホールを活用した遊びスペースでボール投げに興じる子どもたち 東京都杉並区和田にある立正佼成会附属佼成図書館は昭和28年(1953)に開館。70周年を迎えた昨年5月から新たな取り組みを始めた。それが「あおぞら図書」である。普段は静寂なロビーは子どもたちの声が響き、ボール投げや輪投げなどに興じる。来場者は子どもたちだけではなく、幅広い年齢層に及んでいる。
佼成図書館が主催し、地元町会と自治協力会が協賛するあおぞら図書は、毎月第3土曜日の午前10時から午後2時までだが、夏休みの8月は25日の日曜日に開かれた。絵本をはじめ書籍が置かれ、読み聞かせも行われる。この日は特別に視聴覚ホールで地域のフラチームが出演し、練習の成果を披露した。
注目は鉄道模型(Nゲージ)。およそ2㍍四方のテーブルの上にレールが敷かれ、各種の車両が走り回る。これを目当てに、マイ電車を持参する親子もいる。レールの内側にあるジオラマをよく見ると立正佼成会本部周辺である。
あおぞら図書の“仕掛け人”は橋本雅史教団常務理事。中央学術研究所長などを兼務する。
「関係人口という考えがあります。『ソトコト』編集長の指出一正さん、『東北食べる通信』編集長の高橋博之さんが7年ほど前に唱えました。人口減少が続いている島根県の山奥に多くの若者が行くようになり、徳島県や和歌山県田辺市でもそうです。例えば、月曜から金曜までは都市圏で働き、週末は田舎で過ごすというものです。ただ過ごすのではなく、道路の補修など高齢者ではできないことを自分事として作業する。立正佼成会は関係人口の考え方を採り入れることが出来るのか。それが最初の問題意識でした」
蔵書数20万冊の図書館。専門書・宗教書も豊富。しかし活用されているとは言い難い。さほど地域社会に知られていない――。そんな状況を打開して「佼成図書館のファンクラブ」をどう作るか。橋本氏の基本方針は明解だ。▽お金をかけない、▽他者からアイデアをいただくのではなく自分たちが考えできることをする、▽生き生き、ワクワク、みんなが喜ぶこと、▽もちろん安全第一、というものだ。
2年後に閉園が決まっている府中佼成幼稚園の園長でもある橋本氏は、子ども用の椅子や遊具、絵本などを運び入れた。「すべてタダです」と橋本氏は笑う。人気の鉄道模型も橋本氏の私物。利用されていることに本人も目を細める。
橋本氏がこんな企画があるよ、とあるグループに声をかけところ、「平均85歳」の女性たちが「手伝いたい」と手を挙げた。読み聞かせをしていると、「元気をもらえる」と彼女らの生きがいにもなっている。(続きは紙面でご覧ください)
2024/9/19
共生特集 曹洞宗 〝杖〟のような存在に 自死者供養の会が17年目
茶話会の準備をする僧侶たち 自死者の遺族や知人が思いを分かち合う自死者供養の会「祈りの集い」が7日、東京・芝の曹洞宗檀信徒会館で営まれた。教団がグリーフケアの場を継続して設けるまれな取り組みは今年で17年目を迎えた。
祈りの集いを始めたのは2008年。国内の自死者数が年間3万人を超える状態が続いていた時期だった。「社会とつながり役立ちたい」との思いで立ち上げ、宗教者が向き合うべき問題として残された人たちの支えとなっている。
毎年2回、3・9月の彼岸の頃に開催。北海道から九州の広い地域から参加がある。宗教・宗派は問わず、法要は曹洞宗の作法で執り行う。半数ほどは宗門の信徒でないという。コロナ禍に申し込み者のみ視聴できるオンライン配信を開始し、遠方の人や高齢者も参加しやすくなった。
総合研究センターと宗務庁の職員が主体となって営んでいるが、管区教化センターや宗務所、一般寺院など希望する僧侶も研修を受けた上で参加している。取り組みが広がってほしいとの願いもある。
この日は約30人が来場し、約100人がオンラインで参加した。参加者は位牌のほか腕時計や財布、衣服、キーホルダーなどの遺品を持参する。当日に来られない人のために預かった手紙なども祭壇に供え、亡き人へ祈りを届けた。法要後には僧侶も加わって茶話会を開き、悲嘆を分かち合う時間を過ごした。手紙などは集いに関与する僧侶が寺院で供養し、お焚き上げしている。
「大事な人を自死で亡くす悲嘆が消えることはないのかもしれない。だから、必要なときに寄りかかってもらえる“杖”のような存在になれたら」と、2008年の初回から集いに携わる同センター未来創生研究部門主任研究員の久保田永俊氏は継続の重要性を強調する。「死は誰もが迎え、死別の悲しみは誰もが直面しうる。普段通りに接することも大切なことです」と話す。
20年近くの歳月を経る中で「巣立つ」人もいる一方で、高齢で来られなくなった人もいて、時には異変を感じ取ることもある。なるべく特別視しないよう心がけるが、個別に交わす手紙の文中に違和感があったときには僧侶から連絡することもある。
親族ではない恋人や友人などは法事に呼ばれない場合があり、そうした関係者からの求めもあって参加者は遺族に限定していない。LGBTQの当事者もいる。中には葬儀や法事も十分な形で行えなかったり、自責の念を抱え込んでいたりする遺族もいる。
久保田氏は「悲嘆を表出できない人をどうやって受け止めるか。安心して悲しむことができるように、宗教者が受け皿となれるよう努めたい」と語った。
2024/9/19
佐賀空港オスプレイ訴訟 地元住職意見陳述 「中立」は戦争への加担
民間空港である九州佐賀国際空港(佐賀空港、所在地=佐賀市)に輸送機オスプレイを配備する陸上自衛隊駐屯地が建設されつつある中、九州住民による反対運動が広がっている。7月28日には住職を含む245人が原告となり、国を相手どって駐屯地建設工事の差し止めを求める訴訟が提訴された。今月6日には第1回口頭弁論が佐賀地裁で開かれた。
この訴訟は先行して4人の漁業者・地権者が差し止めを求めた裁判との併合審理となっている。原告の共同代表の一人である藤岡直登氏(佐賀市・浄土真宗本願寺派真覚寺住職)は意見陳述で、仏教界がかつてのアジア太平洋戦争で侵略戦争に協力し、門信徒を死地に赴かせつつ教団を維持してきた歴史を振り返り、「その反省・記憶は風前の灯」と危惧。2014年に集団的自衛権を政府が容認したことをはじめ、防衛予算の増加、沖縄などでの軍事基地新増設などを挙げ「その大きな動きの一つとして佐賀の地元でオスプレイ基地がいま着々と造られている」と強く問題視した。
藤岡氏は、他の僧侶から寺は政治的に中立でなければいけないという声も聞いたというが、「中立」を口実に沈黙することは「大きな動きを支えつつのみ込まれること」だとし、4人の地権者(陳述書によるといずれも真宗門徒)を孤立させてはならないとの思いから提訴したと裁判官に告げた。
藤岡氏は真宗遺族会会員で、長く平和運動に取り組んできた。原告共同代表には日本バプテスト連盟牧師の野中宏樹氏も加わっている。国は12月6日の次回期日で反論する予定。
佐賀空港へのオスプレイ配備は安倍政権下の2014年に小野寺五典防衛大臣が古川康知事に計画を告げたことから始まる。中国の軍事力の増大等を理由に島嶼部防衛のための兵器増強を企図する政府と、赤字が続く空港側の思惑が一致したとみられる。昨年6月に駐屯地は着工され、住民の反対運動は加熱。佐賀空港駐屯地に配備される予定のオスプレイが暫定配備されている千葉県木更津市でも、墜落事故や低空飛行による家屋の損傷を危惧する声がある。
2024/9/19
亀岡市仏 ゲームで災害時の判断学ぶ 「風水害24」で体感 命が助かる方途 シミュレーション
市仏の防災活動を話した満林会長 「防災の日」の1日、京都府亀岡市のサンガスタジアムで防災研修ゲーム「風水害24」の体験会が行われた。主催はさまざまなゲームのファシリテーター資格を持つ乾昌志氏が代表を務める「JOY&JOIN」。亀岡市仏教会会長の満林晃典氏(曹洞宗真福寺住職)もゲスト参加し、同会の災害への取り組みを語った。
風水害24は慶応大学特任教授の筧裕介氏が代表を務める(特活)イシュープラスデザインが開発した、大型台風が接近する直前の24時間にどのような行動をすれば自分と周りの命が助かるかをシミュレーションするゲーム。農家や愛犬家などから自分の役割を選び、「家の補強をする」「ハザードマップを手に入れる」「テレビで情報を得る」など選択肢を組み合わせ台風が通り過ぎるまでを生き延びるミッションだが、土砂崩れや避難所でコロナが発生するなどのイベントが続発する。スタート時に100点ある体力がゼロになるとゲームオーバーだ。記者も初対面の女性とチームを組んでプレイしたが、農家の役割を選んだため河川敷にあるビニールハウスの補強に向かって失敗、良かれと思ってやった行動で体力が減ってしまうアクシデントが発生。シビアなゲームだ。
風水害24をプレイする様子 自力で逃げられない認知症高齢者や障がい者を助けるかどうかも問われる。助けるにこしたことはないが、無理に助けようとして自分が死んで共倒れになる危険性もある。あるプレイヤーは「声をかけたのに助けられなかったことが心残りです」と感想。乾氏は「そういうモヤッとした気持ちになり、災害の時にどうしたらいいか考えさせられるのもこのゲームの特徴です」と話した。
ゲーム後には満林氏が講話。市仏は昨年10月に亀岡市と、今年3月には同市社会福祉協議会と防災協定を結んでおり、いくつかの寺院は実際に避難者を受け入れた実績もある。満林氏は能登半島に行った際、「市の人から亀岡市は一番に水洗トイレを持ってきてくれましたね、と言われた。能登では未だに水が貴重」と振り返り、市仏でも井戸水を災害時に提供できる取り組みに動いているという。「井戸水を飲むのはハードルが高いが、生活用水になら使える」。
避難所に茣蓙と坐蒲を持ち込み簡易坐禅スペースを作るアイデアも。「避難所で坐禅なんてやってる暇があるのか?と言われるかもしれませんが、さっき風水害24をやってみてどうです?地に足がつかなかったでしょう?」と気づかせ、そういう時にこそ坐って心を落ち着け、限られたリソースの中で何ができるかを考えるべきだとした。
2024/9/19
念法眞教 開祖生誕139年祭挙行
お祝いの歌を熱唱する園児たち 念法眞教は9日、大阪市鶴見区の総本山金剛寺で開祖小倉霊現初代燈主(親先生)の「ご生誕139年祭」を挙行した。全国の支院主管者や専従教師、各地の信徒ら約1700人が参拝。桶屋良祐燈主を導師に法堂で「報恩お誓いのお勤め」を営み、来年4月1日に開白する立教100年大祭に向けて親先生への報恩行となる現世界極楽浄土実現への精進を誓った。
親先生の御影の前で、僧侶と信徒が心一つに阿弥陀経を読誦。念法眞言、念法開祖御宝号を力強く唱和して祝祷を捧げた。
続いて記念式典。明治19年9月9日の重陽の節句という「9=苦」が「3つもある」日に生まれた開祖の言葉「世の中の全ての人の苦を取るために生まれてきたと思っている」を再確認し、「久遠実成阿弥陀如来の応現身」として年間300日以上全国を巡教した親先生の足跡を胸に刻んだ。
支院主管者代表5人が、親先生にケーキのプレゼントを順番に贈呈。手渡された桶屋燈主が開祖御影の宝前に届けた。
桶屋燈主は、親先生の言葉「私の姿が見えなくなっても、永遠に念法信徒を守り、幸せになってほしいと願っている」を紹介。「念法信心の同行二人」を説き、「来年は立教100年、親先生は140歳」と述懐した。
念法幼稚園の園児代表66人が登壇。「親先生、お誕生日おめでとうございます」の言葉と共に園児2人が桶屋燈主に親先生へのプレゼントである輪飾りを手渡し、全員で元気よく「お祝いの歌」を合唱した。桶屋燈主からは「親先生からのプレゼント」として、園児たちにお菓子が贈られた。
女性修道生9人がご詠歌踊りを奉納。本山教区コーラス隊のリードで、参拝者全員が「親先生を讃える歌」を熱唱した。
一宮良範教務総長は立教100年大祭のスローガン「おかえりなさい、本山へ」を挙げ、大勢の参拝を呼びかけた。
午後は立教100年に向けて体験発表を実施。当日の様子はモバイル金剛寺で全国配信した。
前日にはコロナ禍以来5年ぶりに前夜祭を開催。法堂内に櫓を組み、約400人が念法音頭や念法小唄から成る念法踊りで太鼓や鉦を叩きながら法悦に浸った。
2024/9/12
仏教と社会のつながり学ぶ 武蔵野大の学生が刑務所訪問 教誨の現場をフィールドワーク 教誨師を選択した仏教者に触れる
府中刑務所庁舎 浄土真宗本願寺派の宗門校・武蔵野大(東京・有明)が開講する仏教と社会のつながりを探る授業で、1年生の18人が3日、宗教教誨の現場となる府中刑務所(東京都府中市)を訪れた。実際に教誨が行われる教誨室などを見学し、教誨師からも話を聞いた学生たちは、分け隔てなく受刑者と向き合う仏教者の姿勢に触れた。
授業は「仏教三昧フィールド・スタディーズ」。同大では主体的な学びや実践力の強化に向けて学外学修を行う必修科目があり、国内外で実施される約70の授業から選択できる。「仏教三昧」はその一つで、受講者が抽選になるほど人気があるという。名刹や美術館を訪れて仏教文化に親しむほか、教誨師の営みを通して仏教の社会実践を学ぶ。
来年に巣鴨から移転して90年を迎える府中刑務所は収容定員2668人の国内最大の刑務所で、再犯者や外国人など現在1700人弱を収容する。学生たちはこの日、調査官から現状の説明を受け、刑務所が抱える課題についても考えた。
約2割が高齢者
受刑者数は人口減の影響もあってほぼ右肩下がりだったが、昨年から増加に転じ今年も増加傾向にある。外国人が370人近くを占め、専門の国際対策室が約20カ国語で対応している。ほとんどは初めての入所となるが、累犯者が多い日本人の入所回数は平均5回。最多は25回の受刑者もいる。
暴力団排除条例施行以前の2000年前後には約7割に上った暴力団関係者は約4割に減少。そのため、現在は多数を占める高齢者や疾患のある受刑者向けの運営に切り替わっている。受刑者の約2割が高齢者で、最高齢は95歳。精神疾患や身体疾患で医療上の配慮が必要な受刑者は約7割いる。
受刑者一人あたりの収容費用は年間約300万円。医療費も国費から支出されている。受け入れ先のない出所者の再犯率は6割以上で、2人に1人が再び刑務所に戻るという。再犯を繰り返し、通算50年以上入所する今は高齢者となった受刑者もいる。
調査官は「批判もあるだろうが、出所後の住居や職を探すなど社会復帰の手立てに力を入れている」と話した。
東本願寺の厨子を安置
生体認証が必要な扉が解除され、学生たちは高さ4㍍の塀の向こう側に入った。通常の参観コースとは異なり、特別に教誨室へ向かった。仏教と神道、キリスト教の3部屋がそれぞれ別に設置されているのは珍しい。
10畳以上の広さがある「仏教教誨室」は畳敷きで、部屋中央にテーブルと一対の椅子が置かれていた。仏壇には阿弥陀如来像が安置されている。同行した府中刑務所教誨師会の田澤衛会長(港区・本願寺派広称寺住職、東京都教誨師会会長)は「刑務所が用意した仏さまではありません。真宗大谷派の志ある教誨師によって持ち込まれました」と説明した。部屋の脇には坐禅用の坐蒲が積まれ、禅宗の教誨師が使用している。「神道教誨室」は天理教の教誨師も利用。祭壇が設けられ、「神道」と書かれた扁額が掲げられていた。(続きは紙面でご覧ください)
2024/9/12
日蓮宗現代宗教研究所・中央教研 仏教は戦争を抑止できるのか 戦争協力検証し人間の本質問う 諌暁や常不軽精神重要
戦中や現在の日本仏教のあり方が問われたパネル討論 日蓮宗現代宗教研究所(現宗研、赤堀正明所長)は5・6の両日、中央教化研究会議を東京都大田区の宗務院で開催した。「仏教から戦争を考える」をテーマに取り上げ、国際政治学や仏教宗派の戦争協力、仏教は戦争を止められるのか、という観点からパネル発表が行われ、終戦80年目を迎える来年に向けて宗門のあり方も議論された。
国際政治学者の池上萬奈氏(立正大学非常勤講師)が「国際政治から見た戦争とは」と題してパネル発表。ロシアのウクライナ侵攻やイスラエル・パレスチナ戦争の歴史を解説し、国際法の「強制力がない」「内政不干渉」の2原則を説明した上で、戦時中の中立国を例に「戦争をしないと宣言すれば、どこも攻めてこないというのは、あまりにも楽観的」とした。
一方で、大国の意向が反映される理不尽な国際政治の現実において、軍事力や経済力といった国力(ハードパワー)だけでなく、多くの国から信頼される文化や国民性で他国を惹きつけるソフトパワーの重要性を指摘。「個々人の力が大きなソフトパワーを生み出す、そこに仏教やお題目の力もあるのではないか」と提起した。
「近代以降の日本仏教諸宗派の戦争に対する立場と主張について」と題して発表したジャーナリストの鵜飼秀徳氏(浄土宗正覚寺住職)は戦中における各宗派の植民地政策の中での大陸布教や戦闘機・軍艦の献納、従軍僧の派遣など戦争協力の歴史を振り返った。
今でも寺院に残る戦時戒名や顕彰碑など寺院の戦争の痕跡を辿りながら、「なぜ慈悲を説く仏教教団が戦争協力をしたのか」を究明。明治維新の神仏分離令と廃仏毀釈まで遡り、「いきなり戦争協力したのではなく、連綿と続く権力構造の中で、各教団が立ち直るために新政府にすり寄るようになった」と指摘した。
兵器の献納では資料を交え、浄土宗が戦闘機に「明照號」、日蓮宗は「立正報国號」と名付けた事例を紹介。「特攻機に宗祖の大師号を付け、言わば〝法然号〟と名付けていた。阿弥陀様の像やお題目が置かれ、お題目の下に特攻機が突っ込んでいった」と各宗派の協力体制を繙いた。
現宗研の赤堀所長は「人はなぜ戦争をするのか」と題して発表。アインシュタインとユングの書簡を手がかりに、思想家ロジェ・カイヨワや心理学者のフロイトの戦争への見方を紹介し、戦争が人間の本能に根差す行為であるとして、「仏教は戦争の原因となり得るか」「仏教は戦争を止めることができるか」を考察。
ロシアのウクライナ侵攻や戦前の日本の状況などを見ながら、人間の善悪や帰属意識によって唱えられる正戦論を社会学者ユルゲンスマイヤーのコスモス(秩序だった意味の体系)思想から説明し、「社会主義や民主主義に限らず、秩序だった意味の体系を人々に提供する宗教も戦争の原因になり得る」と危惧した。
その上で、「人間に闘争を好む本性があるからこそ、同時に相反する慈悲の心が発揮されるのが釈尊と宗祖が説く仏教」と説示。釈尊と宗祖に共通する為政者に仏教を説き続ける「諫暁」や敵であっても敬う「常不軽」の精神の重要性を語った。
パネル発表や登壇者の討論を受けた分散会では6グループに分かれて議論が行われた。2日目の全体会議では、来年の終戦80年に向けて宗門のあり方を問い直し、声明文を出すべきではないかとの意見も見られた。