社会保障費にどう対応?宗教法人と厚生年金(3/3)
―上田二郎
公益法人税制見直しの動き
公益法人の税務会計の環境は、平成20年12月に公益法人制度関連三法が施行され、制度改革が進んでいます。
国税庁(東京・霞が関) 極めて簡単に説明すれば、厳しい公益認定基準が設けられ、公益認定審査会の審査を受け、この基準を満たした公益法人だけが公益法人として存続し、認定を受けることができない法人や公益会計基準を守れない法人は、普通(一般)法人として各種税金の恩典を放棄しなさい、という内容です。
著書にも次に改革の波が押し寄せるのは、公益法人等に分類される学校法人や社会福祉法人、宗教法人ではないかと危惧していると書きましたが、実際に政府税制調査会は昨年、公益法人課税の抜本見直しを提言しています。
「日本経済新聞」が平成27年7月4日、《公益法人8割徴収漏れ 源泉所得税 学校・福祉で不適切経理》として、東京・大阪国税局に情報公開請求した資料を分析した記事を報じています。宗教法人を含む公益法人の税務調査によって全体の82・3%で源泉徴収漏れを指摘され、重加算税を含む追徴税額が少なくとも28億円に上った。この比率は同時期に行われた企業や個人事業主を含む源泉徴収漏れの指摘26・6%と比較し、不適切処理が際立っていると報じています。
また、同日の関連記事で《税制優遇にゆがみ 公益法人、20年で2・2倍に》として、広がる公益法人の経済圏に対して、存在感が増す割に株主や市場の監視が乏しい点に触れ、公益法人の原則非課税や経理処理の不透明さを指摘し、外部監査対象法人の拡大が必要と報じています。
さらに、もう一つの論点として、消費税などの痛みの分配が避けられない時代に、公益法人の優遇税制の見直しに言及しています。記事は27年度の税制改正議論で「検討課題」として先送りした課税強化について、痛みの分配をどのように調整するのかと訴えています。
宗教離れが言われて久しいのですが、根底には、繰り返される宗教法人の税金問題にも一因があるように思えてなりません。記事は厚生年金問題への対応の鈍さを牽制しているのかもしれません。
厚生年金問題で仏教界がとるべき行動は各寺院にすみやかな加入を促すとともに、加入した場合の受給資格期間が満たない住職などへの対応を検討するべきです。具体的に例示すれば、現在60歳の住職が今から厚生年金に加入した場合、支払う保険料と受け取る年金との関係はどうなるのでしょうか? もし大きな不利益が生じるなら、年金制度の改善を要求するなど、平成4年以降に失われた23年を取り戻すための責任ある行動をとってほしいものです。
仏教界の取るべき行動は?
一般人の仏教界に対するイメージは、あまり好意的ではありません。なぜ葬儀や法事のお布施を明示しないのか? なぜ財務諸表を公表しないのか? 住職の給与はいくらなのか? 一般人が抱く疑問に仏教界から納得する答えは聞こえてきません。
仏教界が後ろ向きだった「お布施の明示化」は既成事実化しています。永代供養墓の紹介で先行したイオンに対し、全日仏は「お布施の価格表示は仏教の宗教性に対する越権行為」と抗議しましたが、流れを止めることはできませんでした。
イオンに続いて他社も次々に宗教ビジネスに参戦し、永代供養料は3・5~5・5万円で埋葬料、永代使用料、管理料、埋葬後の合同供養料も含まれ「低料金・追加負担なし」を実現しています。
一般的な寺院葬儀の布施に比べ一割程度の料金です。葬儀に宗教的意義を必要としない人からすると安いほうが良く、今後も価格破壊の動きは止まりそうにありません。
環境が激変する中、仏教界が取るべき行動は限られています。宗教法人会計は優遇税制に満ち溢れています。守るために各寺院の法令順守が求められます。一般法人が行った宗教行為はすべて課税対象で、お布施も永代供養料も法人税や消費税が課税されます。
法令順守のためには宗教法人会計や優遇税制を理解することが必要です。基礎知識習得の機会として僧侶養成を担う宗門大学や専修学校のカリキュラムに組み込む、または定期的な研修を行うなどの対応を取ることが求められます。そのことが信教の自由を守ることにもなります。
残された時間はあまりありません。檀家制度の崩壊で末端の寺院が疲弊し、組織力を失ってからでは取り戻すことはできません。
いよいよ10月からマイナンバー(社会保障・税番号制度)が始まります。厚生年金問題のようにならないよう、仏教界が正しくリードしてほしいものです。
うえだ・じろう/昭和39年(1964)生まれ。元東京国税局査察部査察官(マルサ)、税理士、僧侶。近著に『税理士の坊さんが書いた宗教法人の税務』(国書刊行会)