上田二郎提言② of weekly bukkyo-times website ver 2.3

社会保障費にどう対応?宗教法人と厚生年金(2/3)
―上田二郎

 私は著書『税理士の坊さんが書いた宗教法人の税務と会計入門』で、宗教法人の加入率の低さは、いずれ厚生年金未加入問題としてクローズアップされると警鐘を鳴らしてきましたが、ここへきて現実問題になりつつあるようです。

年金機構.JPG日本年金機構・千代田年金事務所 未加入事業者を放置してきた日本年金機構に問題があることは間違いありませんが、問題を認識しながら、適切な対応を怠った仏教界も責任が大きいと言わざるを得ません。いまさら厚生年金に加入しても、保険料だけが増加したものの、加入期間が足りない住職も多くいます。また、寺院の構造的問題と言われる世代交代が進まない一因に、国民年金だけでは生活に不安があって、後進に道を譲ることができない現実もあるようです。

厚生年金加入逃れ阻止の背景

 なぜ、今になって加入漏れ問題がクローズアップされたのでしょうか? 主導しているのは政府です。平成16年の年金改革で「今後100年間の年金財政の安心が図られた」として、当時の自公政権が高らかに宣言した「100年安心プラン」。しかし、この言葉をまともに信じた人は、ほとんどいないでしょう。案の定、今でも年金には未納、政治家の年金、国民年金不正免除、年金記録など様々な問題が山積しています。

 また、現在年金を受け取っている65歳以上の世代が、現役時の6割強の支給を受けているのに対し、40歳以下の世代が受け取る年金は、経済が成長しても現役世代の半分強、マイナス成長だと半分以下になる年金の世代間格差も存在します。

 そして、特に大きな問題になっているのが国民年金の未納です。前述の記事は、一向に進まない未納問題の解決に、ついに政府が本腰を上げた結果ですが「年金はいくらもらえるのか?」と現役世代の不信と不安は尽きません。

 給料から天引きされる厚生年金でも若い世代に不満があって「できれば払いたくない」と思っているのに、自主納付する国民年金の未納問題が解決するはずはありません。そこで、未加入事業者を特定して強制加入させる作戦です。

 厚生年金に加入すべきなのに加入していない会社員は数百万人になると推定されます。加入によって給料天引きで保険料を納めさせれば、低下に歯止めがかからない国民年金保険料の納付率(60%)が大きく改善します。強制加入が進めば相対的に国民年金の対象者が減って未納者が減る目論見です。

 また、未加入を放置すると将来受け取る年金が少なくなって、老後の生活が苦しくなることが想定されます。未加入を防ぐことが将来の生活保護受給者の増加を防止することにつながり、結果として社会保障費の増大に一定の歯止めをかけることが期待できます。

加入逃れが横行する中小零細企業の現実

 厚生年金は個人事業者(従業員が5人以上)や法人事業者が強制加入となる公的年金制度です。保険料は会社と従業員が給与支給額に応じた保険料を折半して支払う仕組みになっています。会社側は従業員全員の保険料の半分を負担するため、保険料が経営に重くのしかかります。負担を避けるため故意に加入を逃れている企業も少なくありません。

 零細企業の中には経営が圧迫されて倒産する会社が増加すると言われ、経営者からは「法人組織から個人に変更して、難局を乗り越えるしかない」との悲鳴に近い声も聞こえてきています。一方、仏教界からは「加入義務のある寺院にとって、保険料で経営が圧迫される企業と同様、大きな影響がある」との意見があるようです。

 しかし、多くの寺院は家族従業員だけで運営しているため、保険料は家族が受け取る年金のために支払われることになり、負担感が比較的軽いといった指摘もあります。また、「宗教法人を狙い撃ち」との意見もあるようですが、大きな視点で捉えた考え方ではありません。

 加入漏れ問題への対応は、国の財政が逼迫し、少子高齢化によって人口が減少していく日本では避けて通れない社会保障費の問題です。年々増加の一途を辿る社会保障費の解決策の一つとして、放置してきた未加入問題に切り込んだ結果、宗教法人と厚生年金の問題を浮上させてしまったのです。

 年金財政の破たんを阻止するため、政府が本腰を上げて手続きをとる以上、宗教法人だけを例外にすることは許されません。まして、零細企業までも強制加入させる姿勢に、もはや「基盤の弱い宗教法人」の主張は通用しないでしょう。

 そもそも宗教法人は公益法人等として多くの優遇税制を享受しています。にもかかわらず、社会保障費の負担からも逃れようとする姿勢に世間は反発しています。宗教法人として優遇税制を受ける以上、住職は役員になりますので、報酬の支給があれば厚生年金の加入は免れません。

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