2024/10/31
長野・円福寺出版部 正月用ポスターと法話のセット制作 「幸せへの道」を説く
長野市篠ノ井の曹洞宗円福寺(藤本光世住職)の出版部は、令和7年正月用仏教ポスターを制作した。愛らしい観音菩薩像や地蔵菩薩像に「幸せへの道」「善き友 善き仲間 善き人々」の標語が入った2種類で、それぞれの文言に合わせた「仏教法話」のリーフレットも付く。ポスターが1枚35円、法話25円で、1組セットが60円(全て税込、送料別)。寺院の名入れもできる。
年始の挨拶回りでの檀信徒への贈り物として毎年正月用ポスター(縦52㌢×横18㌢)と仏教法話を作成している。今年のテーマである「幸せへの道」「善き友 善き仲間 善き人々」は、児童養護施設を運営する藤本住職が「子どもの幸せ」について考えるなかで、「幸せ」の意味を説く大切さを感じて選んだ言葉。スマホやタブレットで子どもたちが「秘密の空間」とつながる現代のネット社会においては、これまで以上に「心の柱」が重要となることから、それを育む宗教行事の重要性を説いている。
実親との縁遠い子どもたちの養育は困難も多い。一方で、何十年経ってもお寺や住職夫妻とのつながりを大切に思い訪ねてくる出身者もいる。その喜びは深い。「見返りを求めてはいけない」。藤本住職はそう覚悟を話す。
愛育園運営のために〝おっしゃん〟が設立
円福寺の先代住職、藤本幸邦氏は敗戦後に東京・上野駅から戦災孤児を連れ帰り、後に児童養護施設愛育園を開園し、〝おっしゃん〟の愛称で親しまれた。施設の運営費を賄うため昭和34年に出版部を設立。幸邦氏が執筆した「修証義」の解説文は檀信徒にもわかりやすいと好評で、それをまとめた「正法眼蔵 修証義(解説付)」は藤本住職が「珠玉の冊子」とおススメする一冊。出版部ホームぺージで一部立ち読みが出来る。お問い合わせは出版部(☏026―292―0381)。
2024/10/17・24合併号
日本被団協にノーベル平和賞 核なき世界 訴え続ける
2016年8月、WCRP軍縮公開シンポジウムで被爆体験を証言した被団協の田中熙巳氏 ノルウェーのノーベル賞委員会は11日、今年のノーベル平和賞を日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)に授与すると発表した。「核兵器のない世界を実現するための努力と、核兵器が二度と使われてはならないことを目撃証言を通じて示してきた」活動が評価された。(公財)世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会は12日、戸松義晴理事長名で祝福のメッセージを発表した。日本被団協の田中熙巳代表委員(92)は2016年8月、WCRP主催の公開シンポジウムで被爆体験を証言している。
1954年3月のビキニ環礁で行われたアメリカの水爆実験を機に原水爆禁止運動が盛り上がり、1956年8月に被団協が結成された。被爆者による証言活動を展開し、2017年に国連で採択され、2021年に発効した核兵器禁止条約の成立を後押しした。同条約の前文には日本語の「ヒバクシャ(被爆者)」が用いられている。
長崎で13歳のときに被爆した日本被団協の田中氏は、WCRPシンポで体験を話すと共に、核廃絶に向けた署名活動の意義をこう語った。「数を望んでいるのではありません。賛同を得る過程で、核兵器がどんなものであるかということを、みなさんが話し合い、知っていただき、核兵器をなくす意志と行動に変えていただきたい。それを願っての署名活動なのです」
世界には1万5千発もの核弾頭がある。核保有国であるロシアとイスラエルは紛争の中で使用を示唆している。こうした世界的な核戦争の危機状態に対して、今回のノーベル賞は核なき時代を求める地球市民の声を集約したものと言える。
創刊者常光浩然と谷本清牧師
ノーモア・ヒロシマ誕生の場に
本紙は1946年7月25日、本願寺派僧侶の常光浩然(1891~1973)によって広島で創刊された。戦時中、東生まれ育った広島県三次市の覚善寺にいた常光は、そこで原爆を体験した。
〈八月六日は、私は、広島市から直線距離にして三十㍄もある三次町という人口二万位の町にある自分の寺にいた。朝八時ごろ自分の書斎にいて、フト何気なく立ち上がった瞬間に、黄金の光が目の前で光った。これがまさしく原爆の光であったのだ。それとは知らぬ自分は奇妙な光だナと思った。その時はそれきりですんだのであるが、正午頃になると、広島は大変なことになったという評判が伝わってきた〉(仏教タイムス1965年5月15日)
常光は東京で活動していたが、戦争が激しくなり、郷里の寺に疎開。そこで原爆の光を見たのだった。この体験が1年後の仏教タイムス創刊につながっていく。第1号に「敗戦はこの広島市街に投げられた原子爆弾から発生した」とあるように、原爆を強く意識していた。また一人の青年牧師との出会いが、有名なフレーズを生み出す。
〈この広島に、キリスト教の牧師で谷川清という人があった。アメリカの大学を出た人で、若くてなかなか元気のある人であった。この人と心やすくなっていろいろ話をしているうちに、「広島で世界宗教会議をやろうではないか」ということになり、二人で東京のマッカーサー司令部に来て宗教課長にあった。その時の話では、やるのは結構だが、ただ焼野原に場所があるかどうか、経費はどうするか、あらゆる便宜は供与するということであった。宿所は米軍使用の建物も一時借りられる。資金は谷川氏がアメリカで集めて来るということで、話しは非常に好都合に進んだ。そのとき宗教課長がUPか何かの新聞記者を紹介してくれ、その新聞記者が、何の目的で広島で宗教会議を開くのか、と聞いたので、「再びあんな惨事をくり返さぬためだ」といった。記者は、それをアメリカその他各国へ打電した。それがNo More Hiroshima(ノー・モア・ヒロシマ)という見出しで世界各国の新聞に出たのである。これも一寸、後世のために記しておくことも無駄ではあるまい〉(仏教タイムス1965年6月12日)
谷川清とあるのは谷本清(1909~86)の誤記。常光は戦前、汎太平洋仏教青年大会に参画するなど国際性を有していた。2人が取材を受けたのは1948年。世界宗教会議は実現しなかったが、先進的アイデアと言える。谷本牧師はヒロシマ・ピース・センターを設立し、被爆者救援や平和活動に尽力した。
2024/10/17・24合併号
大本で裏千家献茶式 丸い茶碗は地球、中はグリーン 101歳大宗匠が平和講演
全身全霊で茶を点てる千大宗匠 大本(出口紅教主)の聖地梅松苑(京都府綾部市)で6日、茶道裏千家の千玄室大宗匠による「長生殿献茶式」が営まれた。大宗匠は101歳の長寿だが、体は健康そのもので歩行も杖を使わず、かくしゃくとした所作で参集した茶人たちを驚かせた。
長生殿の祭壇下に設けられた点茶盤にゆっくりと大宗匠が進み、恭しく献茶之儀を執行。大宗匠が釜から湯を注ぎ、全身全霊で点てた茶を祭員が神前に運んだ。出口教主をはじめ、山崎善也綾部市長や仏教・神道の宗教者たちが玉串奉奠した。
ウクライナや中東などで起きる戦乱に心を痛めた大宗匠が「祈りと一盌のお茶」の題で平和講演をした。大宗匠は中東紛争が第三次世界大戦に発展することを危惧し、一方で我が国に目を向けても尖閣諸島や北方領土は「歴史的に絶対に日本の領土」と力を込め、武力による領土侵犯を断固として批判。またアメリカでの講演で原爆の悲惨さを訴えた時は、「ノー、あれを落としたから日本は戦争をやめたんだ」と反応があったため、「あんた戦争に行ったことがあるのか!」と一喝したエピソードも披瀝。「私は一遍死んできた男」とし、自身が海軍の特攻隊に所属していた戦争中の話も織り交ぜた。
知らない人同士でも「いかがですか、いただきます」とお茶を勧めあうピース・アンド・ハーモニーの精神が大切だと強調。「お茶碗は丸いんです、地球なんです。その中をご覧ください、グリーンがいっぱいある。この茂った緑がなかったらどうします?鳥も人間も獣も生きていけない。森林があるから本当に私たちは自然と共生できる。そのありがたさをもう一度感じていただきたい」と述べ、茶道精神が地球を救うカギになることを訴えた。
大本と裏千家は長い友好関係があり、大宗匠は1973年11月2日の梅松苑内みろく殿での献茶式以来たびたび献茶式を行っている。大宗匠は出口王仁三郎聖師が、美意識を開発することが平安な人間精神につながるという思想から茶道や和歌、能を実践したことを「稀に見る才能のある方です」と称えた。
講演の後は添釜席も設けられ、出口なお開祖のお筆先、王仁三郎聖師の書を鑑賞しつつ、出口教主と大宗匠が歓談した。
2024/10/17・24合併号
曹洞宗臨宗 ソートービル運営計画を白紙撤回 大和証券業務委託契約問題 服部総長が陳謝
会議中に「挨拶」の形で登壇した服部総長 曹洞宗の第145回臨時宗議会が7日、東京・芝の檀信徒会館で開かれた。内局の承認を得ずに大和証券と業務委託契約を結んでいた問題について、服部秀世宗務総長は「配慮を欠くものだった」とし、「あらためてお詫び申し上げる」と陳謝。大和証券との契約は解消し、ソートービルの運営計画を白紙撤回すると述べた。
服部総長は会議中に「挨拶」の形で演壇に立ち、両会派からの代表質問は受けなかった。大和証券との契約は、ソートービルなど宗門所有不動産の再開発計画に関して協力を受ける内容で、昨年8月に締結。今年8月下旬に明らかとなった。庁議(責任役員会)で承認を得ずに契約し、宗議会議員らにも知らされずに計画が進められていた。
ソートービルで運用する東京グランドホテルの赤字が続いていたことから、ホテルの運営を企業に委託する方針だったが、服部総長は「交渉自体に疑義が生じる状況に陥った」と計画を見直す意向を示し、大和証券との契約について「現内局の任期満了(20日)までに解約する」と明言。「私個人の責任において覚書に押印して、ほかの内局員には一切の責任を負わすものではない」と責任の所在を明確にした。
さらに、大和証券を通じて委託候補に挙がった3社のうち、貸会議室大手でホテル運営も行うティーケーピー(東京・市ヶ谷)と進めていた交渉も打ち切ると発表。ソートービルの建て替え構想などを含め、これまで積み上げてきた計画を白紙撤回する考えを示した。
その上で、今後のホテル運営やソートービル再開発計画について、「次期内局でも最重要課題として持ち越していくことになる」と引き続き取り組む姿勢を見せた。
宗議会後の記者会見で、服部総長は庁議にかけずに契約した理由について、ソートービルの運営計画を諮問した総合特別審議会の専門部会で使用する資料作成のために結んだ契約だったと釈明した上で、「庁議で決める事案ではなかったと認識しているが、内局に相談しなかったことを後悔している」と話した。
服部総長は計画を仕切り直すとしたが、「この間に総合特別審議会などの会議を開くためにかなりの費用がかかっている。そうした問題にどう責任をとるのか」などと、問題の解決には至っていないとの見方を示す宗議会議員もいた。
2024/10/17・24合併号
本門佛立宗 上座講師の住職が性加害 天台尼僧の姿見て決意 被害尼僧と弁護士が会見
千葉県東金市の本門佛立宗妙恩寺の住職(50代)が昨年7月7日頃、弟子の尼僧(Aさん・40代)に性加害をして準強制わいせつ罪で今年5月30日に緊急逮捕された。尼僧と國松里美弁護士が11日午後に会見し、信仰に基づく師弟の絶対的な上下関係を暴力的に強いた上で行われた密室での性被害(霊的虐待・信仰虐待〈スピリチュアル・アビューズ〉)を告発した。
Aさんは、性被害を告発した天台宗の尼僧叡敦氏(50代)の姿を見て決意。「自分と同じような被害に遭っている人の助けになりたい」という願いから記者会見に臨んだという。
加害住職は6月20日、千葉地裁八日市場支部に起訴され、当初は否認していたものの9月3日の第1回公判で罪状を認めた。今月29日午後3時からの公判で結審する。
本門佛立宗には直接身体に触れて罪障を消除するという教義はないが、加害住職は教義を偽ってAさんの信心と「師僧は絶対」という立場を利用して淫行。有罪が確定すれば、信仰心を悪用した信仰虐待を司法が裁く画期的な判決になる。
Aさんの父母は元々同宗の熱心な信者。シングルマザーとなっていたAさんも母親の勧めで令和3年3月頃に加害住職に相談するようになり、女人救済の教えに惹かれて翌年6月に得度。やがて加害住職と妻による理不尽な叱責や恫喝、無視等で心身共に絶対服従に追い込まれた。宗派の上座講師でもある加害住職は、「謗法人(教えに従わない者)は家族も含めてみんな地獄に落ちる」などと説いていたという。
逮捕に繋がった性加害は令和5年7月に発生したが、その前にもあり、昨年7月以降も同年11月頃まで継続。同月に東金警察署に相談した。
妙恩寺に送った還俗願が12月2日に加害住職に到着したが、同日と翌日に加害住職やその意を受けた信者らが自宅に複数回来訪。Aさんは、「加害者やその周りの人たちの言動と行動で身の危険を感じ、私や私の家族が報復を受けるのではと怖かった」と振り返った。
加害住職は、Aさんだけでなくその両親にも電話やメールで何度も連絡。Aさんは今年3月に警察署に被害届を出し受理された。
Aさんの還俗願は、宗務本庁で今も保留になっているという。Aさんは、「今後もできることなら佛立宗の僧侶として活動したい」と語った。
2024/10/10
増上寺からガザへ祈りの灯火 今すぐ停戦を
増上寺境内にキャンドルでGAZA。スマホのライトでの生活を余儀なくされているパレスチナへ連帯しスマホを掲げた パレスチナで人道支援活動をしているNGO団体は5日、東京都港区の浄土宗大本山増上寺で即時停戦を求める集いを開いた。共同声明「停戦を、今すぐに」を発表し、境内に「GAZA」の文字をキャンドルで灯し、犠牲者を追悼した。200人が参加した。
イスラエルとイスラム組織ハマスとの戦闘が始まって1年を迎えようとするなか、ガザでの死者は4万1802人、負傷者が9万6844人、国内避難民が190万人にのぼる。現地で活動するNGOは多くの子どもたちが飢餓や精神的な抑うつ状態にあること、過酷な状況でも懸命に生きるパレスチナ人の生の声を届けた。
国連決議や国際司法裁判所の勧告が無視されている状態に、パレスチナ子どものキャンペーンの手島正之氏は「市民が主役と思って行動するしかない」と主張。ヨルダン川西岸地区で活動するパルシックの高橋知里氏は、インターネットで日本での抗議行動などが現地の人にも伝わり力づけられているとし「一人ひとりのできることは小さいが、それが現地に伝わり、世界にも広まっている。それは力強いこと」と連帯の力に希望を見いだした。
集会にはガザの難民キャンプ出身で医師のイゼルディン・アブラエーシュ氏も参加し「行動が必要です。即時停戦をもっと広めて下さい」と訴えた。
実行委員会は「一人の市民として、一刻も早い恒久的な停戦と占領の終結、この理不尽な暴力の終息を強く訴え」る声明を発表。宗教者に求めることは何か、との問いに対し、セーブザチルドレンジャパンの金子由佳氏は「パレスチナ問題は宗教問題ではないが、宗教者の取り組みが重要になる側面がある」とし、「平和を訴えていない宗教はないと理解している。そこを宗教者は声を大にして言ってほしい」と要望した。パレスチナ子どものキャンペーン代表で浄土宗僧侶の大河内秀人氏は「尊厳、自由や人権、平和をテーマに連帯することが信念や信仰の妨げにはならないし、連帯していくことは可能なこと。憎しみや欲や無知が私たちの一番の障害。それを乗り越えるために、信仰の力を活かしたい」と話した。
2024/10/10
宗門系大学サバイバル 愛知学院大学編 木村文輝学長に聞く 広い視野持つ僧侶を育成
明治期の1876年に大光院(名古屋市中区)内に開設された曹洞宗専門学支校を源流とする愛知学院大学(本部・愛知県日進市)。再来年の2026年に学校法人愛知学院として創立150年の節目を迎える。現在、1万1千人超が学ぶ10学部16学科、9大学院研究科などからなる中部地区最大級の総合大学に発展し、県内の社長輩出数で最多を誇る大学としても知られる(全国で18位、2023年の東京商工リサーチ調査)。一方で宗門子弟が通う曹洞宗の宗門大学という役割を担い、木村文輝学長は教師養成機関でもある文学部宗教文化学科を大学の基幹に位置付ける。木村学長に、育成目標とする僧侶像や縮小社会での宗門大学のあり方を聞いた。
◇
文学部など4学部が設置される日進キャンパスの広さは約50万平方㍍。東京ドーム11個分という広大なキャンパスの中央には大学シンボルの100周年記念講堂が建つ。自然豊かな構内にはグラウンド4つのほか、強豪で知られる硬式野球部の野球場やサッカー場、ゴルフ練習場など運動施設も充実しているが、注目したいのは坐禅堂だ。
国内の大学が保有する最初の坐禅堂として1980年に開単。曹洞宗の様式に基づく本格的な僧堂で、同大の教育理念を具体化するもう一つのシンボルだ。前門に掲げられる「選佛場」の扁額は大光院17世・梅嶺大枝(1731~1794)の筆で、曹洞宗専門学支校時代の草創期を伝えている。
毎月第2火曜日に開く「火曜参禅会」は開単以来の伝統で、学外からも広く参加者を募って活動が続けられている。坐禅堂と廊下でつながる建物が大学付置研究所の禅研究所。「学内における私の本籍地です」と話すのは木村学長だ。禅研究所の研究員がキャリアのスタートだった。学長となった今も机が置かれ、所属する文学部日本文化学科の授業でゼミも行っている。
宗教を教育の基幹に
同大には仏教学部は設置されず、宗門子弟の育成は文学部宗教文化学科が担う。過去10年間の入学者数は、2017年に定員70人を下回る69人が一度あった以外は70~80人台で推移。今年度は88人だった。そのうち宗門子弟数は毎年10人前後となっている。
学科名が表すように、宗教一般の幅広い理解が得られるカリキュラムが特色。宗学や禅宗史を中心にしながらも、西洋思想や現代社会と宗教の関わりを探る授業も開講する。東日本大震災などを機に問われるようになった仏教者の社会的役割という見地も踏まえ、時代の変化に対応できる広い視野を持った僧侶の育成を目指している。
宗教文化・仏教文化・禅文化の3分野があり、3年生の進級時にコースを選択する。宗門子弟向けの授業もあり、法式を修得する「行持の基礎」や法話を学ぶ「教化布教特講」といった実習を伴う講義を行っている。
「中東の紛争や米大統領選、チベット問題など現在の世界情勢は、宗教を見取り図に眺めると理解が深まる。今はもっと宗教研究が注目されるべき時代だ。しかし、その受け皿となる大学は少なく、私立では宗学が中心となってしまう。その点、宗教という大きな枠の中で仏教を見ることができるのが、本学の強みと言える」
木村学長はそう述べ、現代に宗教研究は重要だと強調する。宗教が後景に退く時代にあって、大学案内の冊子では文学部5学科の掲載順で同学科が最後という立場となっている中、「今こそもう一度、宗教・仏教学を教育の中心に据えなければならない。禅研究所は本学の柱であり、宗教文化学科は基幹として位置付けられねばならない」と力を込める。(続きは紙面でご覧ください)
2024/10/10
武蔵野大学 次期学長に小西聖子副学長 初の女性学長誕生へ
小西次期学長 武蔵野大(東京・有明)は4日、任期満了を迎える西本照真学長の後任に、小西聖子副学長を選任したと発表した。任期は2025年4月から4年間。1924年の創立以来、初の女性学長となる。
小西氏は1954年生まれの69歳。愛知県出身。東京大教育学部卒。筑波大医学専門学群を卒業した1988年に医師免許取得。筑波大大学院博士課程医学研究科修了。1999年に武蔵野女子大(現武蔵野大学)人間関係学部の開設に合わせて教授に就任。2021年から現職。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療が専門で、トラウマを乗り越える治療・持続エクスポージャー法を施術できる数少ない精神科医。2021~23年に刑法の性犯罪規定の見直しを検討した法制審議会の刑事法部会の委員も務めた。
2024/10/10
浄土宗宗議会 機構改革案、異例の否決 責任役員の増員ならず
閉会挨拶で「十分に検討する」とした川中総長 浄土宗第133次定期宗議会(宮林雄彦議長)が9月30日から10月3日までの4日間、京都市東山区の宗務庁に招集された。令和5年度決算をはじめほとんどの議案を可決したが、川中光敎宗務総長が力を入れていた宗務庁機構再改革の案は僅差で否決された。
否決されたのは宗教法人浄土宗の規則改正案。①責任役員を4人から6人に増員、②現在の総務部・社会部・教学部・企画調整室の機構を「総務部・社会部・教学部・財務部・企画広報部」に改組し各部長を宗務役員とする、というのが大きな骨子。豊岡鐐尓前内局が宗務機構のスリム化を主眼に作った2019年4月からの「3部1室制」を再改革しようとするものだった。背景には総務部が財政関係の仕事を分掌することになり権限と業務が過大になっていたことがある。2019年3月までは財政関係の業務は「財務局」が所管しており、財務部の設置に関しては復古という面があった。なお豊岡前内局において、川中現総長は財務局長・教学局長だった。
宗教法人浄土宗の代表役員は総長、責任役員は宗務役員だが、川中総長は、他宗と比較検討した上で、浄土宗の教団規模で責任役員が4人ということにコンプライアンス上の問題意識を抱いていた模様。機構改革と責任役員増加を組み合わせて上程した形だ。
法規特別委員会(村上眞孝委員長)にこの議案が付託されたところ「数年前に議会の場で同意した機構改革の理念から乖離する」といった意見、責任役員の増加は妥当だが「経費増大となる」という懸念が出たものの、原案可決すべきと意見がまとまり、議会に委員長が報告。これを受けて無記名投票が行われた。浄土宗規則の改正には議員の3分の2以上の賛成が必要だが、出席議員70人中24人が反対票を投じ、僅差ながらも否決。特別委員会が原案可決すべきとしたものが本会議で覆されるのは異例の出来事。(続きは紙面でご覧ください)
2024/10/3
宗門系大学サバイバル 種智院大学編 村主康瑞学長に聞く 寺リーマン 会計できる真言僧育成
真言宗各派の総大本山18カ寺を経営母体とする種智院大学(京都市伏見区)は、弘法大師が1200年前に開いた綜藝種智院の伝統を受け継ぐことから、「日本最古の私学」とも称される。人文学部に仏教学科(入学定員15人)と社会福祉学科(同)を設置し、真言密教の事教二相に精通した僧侶と密教福祉を実践する人材を輩出している。村主康瑞学長はこれからの僧侶像について、「事教二相に加え、寺院経営学を修得する必要がある」と強調。「小さくても、キラリと光る。これこそが、お大師さまが目指された宗門大学の形だと思う」と話す。
「各派18本山とその関係寺院・宗派に支えられている本学の最大の責務は、徹底した宗門教育を実施すること。『種智院大学に行きさえすれば、真言僧侶の何たるかを学ぶことができる』。こうした宗内の期待に応え、弘法大師から続く教相(哲学と理論)と事相(実践)の血脈を受け継いでいくのが本学の使命だ」
仏教学科の入学者はほぼ各派の寺院子弟で、在家出身者は2~3人。女子も3人前後いる。「定年退職後に僧侶になるために入学する人もおり、若い学生の刺激になっている」。他大学を卒業してからの3年次編入学が、毎年10人くらい来るという。入学定員15人は毎年充足しているが、日本人は10人程。5人前後は中国からの留学生だ。
真言僧になるための加行(けぎょう)は、各派本山の修行道場と単位認定などで連携して実施。学生は休学せずに所属本山で行に入ることができる。「この制度は本学が最初。当初は文科省から『大学教育を外注していないか』と指摘されたが、正当な仏教教育だと説明した上で本学の教員が行の場に出向する形にした」。大学の加行道場も西大寺(奈良市)を借りて、春夏の長期休暇中に計約90日間開設。主に女子や在家の学生、留学生が入行し、大学から各派講師を派遣する。
天台宗の叡山学院(滋賀県大津市)とも事相面で教育交流。声明公演の共催など平安仏教への理解を深めている。
少子化の中で、中国の留学生が重要に。「7年程前に世界仏教徒大会があり、中国仏教界の要人に『中国に唐の時代の仏教が正しい形で伝わっていない。それを戻したい』と相談した。それが契機になり、留学生を送ってくれるようになった。1年間、日本語を学んでから来日するが、本学でも日本語講座を用意している」
「寺(てら)リーマン」を育成
村主学長は、「今、本学で力を入れているのは寺院経営学の授業で、私が講義している。これからのお寺は、経営理論がなかったら成り立たない。自坊の経営状態の洗い出しや周辺環境の把握、将来の展望など、それらを見極める力が必要だ」と力説。元TBSアナウンサーによる講義で法話とは違う話し方を学んだり、会計士による寺院会計、京都府から行政の専門家や弁護士を招いての宗教法人法の講座も開いたりしているという。
「お布施を頂いたら寺院会計に入れて、そこから源泉徴収して給料をもらう。丼勘定では、もう世の中に通じない。檀家からお布施をもらった時、それを相手がどういう気持ちで出しているか。サラリーマンが1万円稼ぐのは大変だ。ましてや年金生活者のお布施は貴重だ。そういうことが分かる僧侶を育てたい。私はそうした人材を、会計がしっかりできる僧侶という意味で『寺リーマン』と呼んでいる」(続きは紙面でご覧ください)
2024/10/3
能登半島豪雨災害 寺族を防災ヘリで救出(高野山)珠洲市の女性僧侶死亡(大谷派)
元旦の大震災に続いて今度は線状降水帯が9月21日に発生し石川県能登半島の被災地を襲った。豪雨は23日まで続き、広範囲に被害を及ぼしている。
【高野山真言宗】
大地震で全38カ寺が被災した石川県北部の能登宗務支所では、川元祐慶支所長(穴水町・明泉寺)が全寺院の安否を確認。全員の無事が判明した(9月26日現在)。金沢市や小松市などで避難生活を続けている住職もいることから、「寺の被害の本格的な調査はこれから」。川元支所長は、「寺の復旧自体すら始まっていないのに、この豪雨でさらに輪をかけて復興が遠のいた…」と嘆息した。
土砂崩れで庫裏の1階が倒壊し22時間閉じ込められた後に防災ヘリで22日に救出された岩倉寺(輪島市町野町・一二三秀仁住職)の寺族(住職母・良子さん)は「1週間ほどの入院」。川元支所長は、「無事だったのは奇跡。元旦の地震で助かった命だ。救出が間に合い、本当に良かった」と安堵した。
第1次調査で以下の状況を把握。「山奥の入り組んだところにある」A寺は「道路寸断だが、敷地外の車庫まで徒歩で行けば外出は可能。通電しているが断水」。B寺では「本堂に泥水が流入し、本堂のみ電気不可。ボランティアを求めている」。C寺は「家屋に床下浸水。周辺に流木が散乱、水が濁り使用不可。水の配給はある」。D寺は「停電・断水」。E寺は「本堂、納屋横の崖崩れで泥水流入。納屋の使用不可」。
川元支所長は、「元旦の地震で寺の裏山が崩れたが、さらに今回の豪雨でその時の土砂の上に新しい土砂が崩れてきたケースが多いようだ。経験したことがない大雨だった」と説明。「通水したばかりなのに断水した地域や、井戸が濁り使えなくなった所もある」とし、「明日(27日)、宗務所の担当者と被災寺院を回り状況を確認した上で、今後のことを話し合う」とした。
【真宗大谷派】
石川県珠洲市大谷町の浄正寺で24日午後3時、山からの流出土砂で屋根まで埋まった寺院兼庫裏から女性僧侶が発見され、死亡が確認された。同寺より高い場所にあって隣り合う廣榮寺は、元日の地震で発生した土砂で倒壊。住職が亡くなり、1月28日に発見された。
6月に被災地を回り両寺も訪れていた僧侶の一人は、「現場は谷になっていて、廣榮寺の本堂は土砂に埋もれていた。凄まじい土砂の量だった。その下側に浄正寺があり、間に用水路のような小さな川が流れていた。今回の豪雨で、さらに山から谷筋に大量の土砂が押し寄せたのだろう」と悲痛の念を示した。
2024/10/3
佛教大学 次期学長に佐藤和順教授
佐藤次期学長 佛教大学(京都市北区)は9月25日、来年3月末に任期満了となる伊藤真宏学長の後任の学長選挙を実施し、第14代学長に佐藤和順(さとう・かずゆき)教育学部教授・幼児教育学科長を選出した。任期は2025年4月1日から29年3月末までの4年間。
佐藤次期学長は1965年10月生まれの58歳。兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科博士課程修了。博士(学校教育学)。兵庫大学短期大学部助教授、就実大学教授、岡山県立大学教授を経て2019年4月から佛大教授、岡山県大名誉教授。20年4月から佛大附属幼稚園園長。専門は幼児教育・保育で、『保育者の働き方改革』などの著作がある。自坊は広島県福山市の浄土宗定福寺。
2024/10/3
袴田事件 袴田さん無罪判決に思う 生命山シュバイツァー寺 古川龍樹代表
9月26日、静岡地裁で袴田巌さん(88)に無罪判決が出された。判決では捜査機関の証拠捏造まで指摘している。自白も強要されたもので、袴田さんは裁判で無罪を主張したきたが、死刑判決が確定。重い扉である再審によって、58年を経て、ようやく無罪となった。
同様に冤罪を訴えながら刑死した福岡事件の西武雄さんの再審運動に、父の古川泰龍師以来、2代にわたって取り組んでいる生命山シュバイツァー寺(熊本県玉名市)の古川龍樹代表にコメントいただいた。
…
袴田巌さんの無罪判決、おめでとうございます。姉ひで子さんとも長い付き合いになりますが、判決の日の今まで見たことのない満面の笑顔は、私にも感慨深いものでした。また、長い間活動継続されてきた支援者の方たちへ、心からお祝い申し上げます。
それにしても判決は、司法の多くの問題を浮き彫りにしました。この後に及んで控訴できるなど、再審のハードルを高くしてきた問題だらけの刑事訴訟法(再審法含む)はすぐに改正が必要です。長い年月を費やした上、人生を狂わせた責任は誰がとるのか…。またこれで冤罪死刑囚5人が死刑台から生還したのに、死刑は廃止しないのでしょうか。
国は、結果全員助かったのだから、再審法も死刑もそのままに、と何ごともなかったかのようにやり過ごすかもしれません。
しかし「死人に口なし」、「福岡事件」の西武雄さんのように、冤罪死刑囚本人が処刑されれば、遺族などに請求権は限られ、名誉回復さえも叶わないなど、人権軽視の現行法は問題が山積みなのです。そしてこれらを放置してきた責任は、司法のみならず、私たち自身にもあるのではないでしょうか。「万人は一人のために」、「いのち」の繋がりに目覚めなければ、過ちは繰返されます。
来年は西武雄さん処刑後50年を迎えます。彼の記録を元に、冤罪死刑囚の苦しみや死刑執行の異常さなどを公にしたい、そして再審法改正、死刑廃止に繋げたい。袴田さんの無罪判決を無駄にしないためにも休む時間はないのです。
9月
2024/9/26
日蓮宗総本山身延山久遠寺 共栄運動5周年 自利利他の精進表明 法華経の聖地から理念発信
共栄社会の実現を願い唱題する持田法主 日蓮宗総本山身延山久遠寺(山梨県南巨摩郡身延町、持田日勇法主)は16日、同寺本堂で「共栄運動発足五周年記念大会」を執り行った。法華経の共生、共和の精神を実践し共栄社会を実現する信仰運動が5周年を迎え、持田法主は「寛容と和合の精神を発揮していく」と述べ、自利利他の精進を誓った。
同寺の信仰運動「共栄運動」は「共に生き 共に栄える」をスローガンに令和元年(2019)に発足。寺院を取り巻く外部環境に対応し、法華経に説かれた六波羅密の菩薩道を実践することで世界全体が共に栄える社会を目指す実践運動として始まった。(続きは紙面でご覧ください)
2024/9/26
曹洞宗 内局部長 辞任の意向示す 大和証券業務委託 承認得ない契約を問題視
曹洞宗が東京グランドホテル(港区芝)として運用するソートービルなど宗門所有の不動産の運営を巡り、服部秀世宗務総長が内局の承認を得ずに大和証券と業務委託契約を結んでいた問題を受け、内局の各部長が辞任の意向を示していることが分かった。任期4年の折り返しに伴う10月の内局改造を目前に、宗政は混乱に陥っている。
契約は大和証券が不動産の再開発計画に協力する内容で、昨年8月に締結。契約にあたっては一部の部長にのみ知らされ、庁議(責任役員会)の承認を得ずに進められていたことが8月下旬に明らかになった。
これを受け、首班の大本山永平寺系会派・有道会側を含め、内局の各部長が辞任の意向を表明。大本山總持寺系会派・總和会側では、三𠮷由之会長が留めている状況という。
一方で服部総長から諮問を受け、昨年からソートービルの運営方針を検討してきた総合特別審議会にも契約の事実が報告されていなかったことから、関係する宗議会議員らも問題視。6月の宗議会では中村見自議員がホテル運営の方針決定に至る経緯を質し、「宗議会でわれわれ議員は一度もゴーサインを出していない」「その都度合意形成を図り、検討と協議を重ね、丁寧に宗議会議員に議決を求めるべき」と訴えたが、服部総長は答弁で契約のことには言及しなかった。
一部の議員からは「議会軽視だ」と憤りの声が上がっている。9月18日に宗務庁で両会派議員総会が非公開で開かれ、服部総長はこの問題に関して説明したと見られる。
ホテル運営の委託候補となった企業も大和証券を通じて決定している。服部総長は内局改造前の第一次内局で結論を出すとしていたが、一連の計画は立ち消えとなるのか注目される。
2024/9/26
佛教大 障がい超えスポーツ共生 車いすバスケ大会初出場
シュートを決めた藤原さん(中央) 障がいの有無に関わらず誰もが主役になれるパラスポーツを盛り上げたい―そんな思いから佛教大学(京都市北区)に7月、バスケットボール部内に車いすバスケ部門が誕生した。今月15日には大阪府枚方市の渚市民体育館で開催された、大学対抗車いすバスケ大会「ビリケンカップ」に出場し、2試合を敢闘した。
車いすバスケ部門は、教育学部4年生の藤原芽花さんが中心になり設立された。藤原さんはハンドボール部に所属していたが2年生の時に練習中に転倒。手術後に不随意運動という症状を抱え、車いす生活となった。そこでパラスポーツに取り組むようになり、車いすハンドボール(日本代表)、パラアイスホッケー(世界大会出場)、それに車いすバスケの三刀流で活躍する。
車いすバスケは選手たちが車いすに乗る以外、大きなルールは通常のバスケットボールと同じ。ガシンと車いす同士がぶつかり合い、時にひっくり返ってしまうこともあるが、そこは敵味方関係なく選手同士で起き上がるのを助け合うフェアプレイだ。
今回は佛教大学からは藤原さんを含め、学生・教職員の6人が参加。大阪体育大学との混成チームだが息のあったプレイに。藤原さんはここぞという時にシュートを決め、インターバル中にはチームメイトを力づける役割も。
初戦相手の宝塚医療大学のチームには、車いすバスケ日本代表の村上直広選手もおり、40対28で佛大チームが黒星。藤原さんは「本気で戦ってもらった」と悔しそうだが爽やかな笑顔。藍野大学との2戦目では前半は佛大チームが優勢に展開を繰り広げるが、後半、藍大も怒涛の追い上げを見せ、大激戦に。33対28で佛大チームは惜敗した。
しかしこれは、次に繋がる「価値ある負け」。藤原さんは「次は1勝します!」と、3月の次の大会への抱負を話す。大学生としてはその大会が最後。やがては日本代表に、と闘志を燃やしている。
2024/9/19
共生特集 農から考える地球環境 東京農大名誉教授・日本財団特別顧問 板垣啓四郎氏に聞く 「食・農・環境」は1本と考えよう
いたがき・けいしろう/1955年鹿児島県生まれ。東京農業大学卒業後、イギリス・レディング大学食品・農業経済学部へ客員研究員として留学。東京農業大学助教授、教授を経て、2020年に定年退職し名誉教授。その後(公財)日本財団特別顧問となり、現在に至る。専門は農業開発経済学。博士(農業経済学)。 昨年、国連のグテーレス事務総長は、地球温暖化は「地球沸騰化」になったと警告を発し対応を迫ったが、今年も異例の暑さとなった。他方でロシアとウクライナ、イスラエルとパレスチナ・ガザ地区の戦争が続いている。地球温暖化に加え、こうした戦争は世界の農業にも大きな影響を及ぼしている。全世界が約束した持続可能な開発目標(SDGs)を含めて、「農」から考える環境と平和について東京農大名誉教授の板垣啓四郎氏にインタビューした。
――今夏の暑さは地球規模のようですが、農作物にはどんな影響を与えているのでしょうか。
経済追求が土壌にしわ寄せ
板垣 地球温暖化によって、産業革命以来、平均気温は1・8℃の上昇。このままでは今世紀末には2・2℃まで上がると予測されている。
地球温暖化の影響は高緯度地方ほど大きく、赤道周辺はそうでもない。高緯度地方は世界の穀倉地帯にあたり、北半球ではカナダ、アメリカやロシア、ウクライナなど。南半球ではオーストラリアとニュージーランド。ブラジルは高緯度ではないが、農業大国。温暖化の影響で今年大洪水が発生し、天候不順が続いたため、一部の農産物が不作となった。身近な輸入品ではオレンジ果汁がブラジルから入ってこなくなった。そのためファストフード店ではオレンジジュースの販売を休止したところもある。
気候変動に加えて土壌の荒廃が起きやすくなっている。高温で風が強かったりすると農地は乾燥し劣化する。化学肥料は、速効性はあるけれども頼りすぎると農地が硬化し、土中に空気や水が入らず、表土はより一層乾燥する。禾本科作物だけでなくマメ科作物などを輪作していかないと土壌の肥沃度は回復しない。効率性や低コストといった経済性を追求した結果が、土壌にしわ寄せされているといえる。
温暖化が進めば寒冷地は暖かくなるから作物ができるという楽観論もある。ロシアが一つの事例であるが、国土の一部を除きそれほど農地は豊かでない。栽培する作物の種類が増え生育期間は延びるかもしれないが、ロシア南部では逆に高温によって不作になる可能性もある。
一方で困った問題は、肥料の原料となるカリウム、尿素、リン鉱石などがロシアに集中していることだ。ロシアは肥料を製造し輸出しているが、その原料も輸出している。肥料をつくるのに原料を融解し粉状にしなければならないが、その過程で多くのエネルギーを使う。たまたまロシアは天然ガスが豊富だからでそれができた。ところが、ロシアがウクライナと戦争したばかりに世界的に肥料の原料および肥料の輸入が制限されている。そのため肥料価格が高騰し、世界の農業に深刻な影響を及ぼしている。
「水の輸入国」日本
――かねてから「水」問題が指摘されていますが。
板垣 アメリカでは地下水の水位がどんどん下がり、汲み上げるのにコストがかかる。アメリカの穀倉地帯である中西部は主にトウモロコシや大豆、小麦などを栽培しており、またここは世界有数の肉牛飼養地帯でもある。肉牛は大量の水を必要とする。1㌔の牛肉をつくるには1万5千㍑の水が要る。飲む水のほかにエサとなる飼料の栽培にも大量の水を使う。牛は比較的体温が高いため、気温の高い状態が続くと炎症を起こしやすい。それを避けるため牛に放水したりする。これも相当な量になる。
日本にとってオーストラリアは最大の牛肉輸入国。ここでもアメリカと同様に大量の水が使われていることに変わりはない。日本は水が豊富に存在するが、世界から見れば、「水の輸入国」でもある。
――アフリカで農業開発支援プロジェクトに携わっていますが。
板垣 SDGsが掲げる17の目標の第1に掲げられているのが「貧困をなくそう」、第2が「飢餓をなくそう」。それだけ世界的に切実な目標であるが、コロナ禍の間に飢餓人口は逆に増えてしまった。飢餓というのは絶対的な栄養の不足。アフリカの場合、4人に1人が栄養不足の状態にあり、非常に緊急性を帯びている。しかも人口が現在14億弱だが、10年後には24億になる。そのときの世界人口は90億近くになる。その4分の1がアフリカの人口、さらにその4分の1が飢餓線上にあり、いかにアフリカで食料が不足しているかが分かる。
エチオピア、ソマリア、ケニア、コンゴ、カメルーン、中央アフリカ、ナイジェリア等が特に深刻で、やはり経済的に貧しい国、紛争が多い国々に顕著に現れている。最近ではフーシー派が台頭するイエメンでも食料不足が深刻です。
日本の農業分野に対する国際協力は、途上国の中でアフリカを中心に行われているが、日本のODA(政府開発援助)予算は年々減少してきている。政府予算の多くが防衛費などにまわされ、現在ではODA予算が最も多かったときの半分ぐらい。できるだけ民間セクターの力も借りて国際協力を担ってもらおう、という方向に舵をきっている。
アフリカ農業支援
アフリカの国際農業協力では、日本は4つの柱でもって進めている。1つめはコメ増産技術の向上、2つめは栄養改善、3つめは売れる農業、4つめは気候変動対策。かれらの主食はイモやトウモロコシだが、国によってはコメがだいぶ出回ってきた。コメは貯蔵が利くし、調理が簡単なので好まれている。栽培には水稲もあれば陸稲もある。しかしながら、陸稲作は収量が上がらない。日本は水稲作、陸稲作ともに技術支援してきた結果、比較的よい成果が出ており、支援している国から高い評価をいただいている。
栄養改善では、既存の作物に不足しがちなミネラルとかビタミンを含む品種を開発している。また従来の調理法では穀物や野菜などの栄養素が十分に留まらないため、栄養を保持する調理法を教え、また燃料を効率よく使うためにカマドの改良も指導している。日本で行っている食育が現地でもショクイク(Shokuiku)として受け入れられ、食生活の改善が実践されている。
売れる農業というのは、農家が自ら市場を調査して何が売れそうな農産物なのか、何が高く売れそうな農産物なのかを確かめてから、計画的に作物を栽培し販売するというものである。これまで買い手である商人の言い値に販売を任すままであったが、生産者側も交渉して価格を決められるようになり、その結果収入が増えていって農家から喜ばれている。
気候変動対策は、灌漑施設を改善して水を圃場へ安定的に供給するとともに、土壌に有機物や堆肥を投入、被覆作物を圃場に植え付けし、また輪作などの作付体系により、土壌の乾燥を防ぎ、土壌を豊かにし、さらに二酸化炭素など温室効果ガスの大気への放出を抑えるための技術支援である。
農業が環境・資源を保全
――農業と環境は密接につながっています。両立するには。
板垣 日本の食料自給率(カロリーベース)は38%とかなり低い。その一方で、食料・農産物の輸出に力を入れている。インバウンドの効果もあって日本の食事=和食に対する評価が高まり、ここを輸出に向けた商機としている。しかしながら、輸出品目は極端に片寄っている。サシの入った牛肉、ウイスキー、リンゴなどの果実、水産加工品など。言い換えれば、不足する原材料を海外から輸入し加工して輸出しているのが実態です。
栽培している作物によって異なるが、稲作就業者の平均年齢はおよそ75歳。この人たちがリタイアーしていけばはたして後継者はいるのだろうか。耕作放棄地はさらに増えていくだろう。彼らに代わって農業法人に引き継いでもらうという政府の方針はあるが、このままでは米価が低いのでコストを十分に補い切れず、収益が上がらなければ、新規の就農者も増えず法人もまた農業を諦めるかもしれない。日本人のなかには、食料は安くて当たり前という感覚がある。食料価格が少しでも上昇すればすぐに政府が悪いとする。
しかし農業(林業・水産業含む)によって、環境や資源が保全され、景観が維持され、農村の文化や伝統も守られている――というように考えなければならない。農業をコメなど農産物の量や価格だけで判断するのではなくて、農業が営まれる背後にある環境の側面にも貢献しているといったように目を向けてもらいたい。そういう観点から農業をもう一度見直し、コメや農産物の量と価格は妥当なのか、持続可能な農業で環境の保全と共生できているのか。すなわち「食・農・環境」を一本にして考えて欲しいのです。
2024/9/19
共生特集 浄土真宗本願寺派 外から見えぬ被害、未だ復興せず 能登町・松岡寺でボランティア① 門徒が活躍 本紙記者も体験
軽トラ本願寺号に廃棄家具を積む川井氏と粂氏 北陸の浄土真宗本願寺派寺院は能登半島地震で甚大な危機に陥っており、宗派の公式発表によると、8教区513カ寺(加えて直轄寺院である別院6カ寺)に被害があった。発災直後から総局の指示で状況の調査が始まった。あわせて京都の宗務所から第1次復旧支援隊が石川県に入ったのは1月4日。同月8日には金沢別院(金沢市)に「能登半島地震支援センター」(以下、センター)が設置され、本格化した。
センターは現在まで、被災寺院の整備や炊き出しといった直接支援だけでなく、全国から寄せられた物資の分配、ボランティアの受け入れなどコーディネート業務にあたっている。9月8日、記者は鳳珠郡能登町の松岡(しょうこう)寺(波佐谷真充住職)における、災害ゴミ搬出ボランティアに参加した。
前日夕方にセンターに入った。参加者は川井周裕センター長、記者、それに女性ボランティアの3人だけだという。正直、少ないと思ったが「ゴールデンウィーク以降はボランティアはずいぶん減りました。被災地の情報の報道もあまりされていませんから」と川井氏は話す。センターではボランティアのための長靴やヘルメット、手袋などが十分に用意されていた。衣服や食料などの支援物資の箱も積まれている。
ボランティアはセンターに無料で宿泊することができる(寝具を提供。風呂・食事はなし)。金沢別院も本堂や山門など被害が大きかった中で受け入れに奔走している。泊まる広間のテレビには金沢市内で行われた復興マルシェの短いニュースが映ったが、能登の様子は流れなかった。11時に消灯。
翌朝7時半に2台の車で出発した。記者の乗った車を運転したのは一般ボランティアの粂亜希子氏。愛知県西尾市の教蓮寺の門徒で、この日で被災地入りは13回目。「困っている人が周りにいたらやっぱり助けるんじゃない?自分もいつ困るかわからないんだよ…お寺の日曜学校で、どうしてボランティアするの?と聞いてきた子にはそんなことを言いましたね」と話す。のと里山海道(高速道路)を北上し能登町へ。約130キロ約2時間半の道のりだ。「これでもずいぶん早く着くようになったんですよ」と粂氏。冬から春、道が悪かった時期には4時間半かかったため、朝5時半に出発したのだという。ちなみに、途中のパーキングエリアには本願寺派門徒が出している特産品の店もあり、帰り道に「爆買い」で支援することもあると教えてくれた。(続きは紙面でご覧ください)
2024/9/19
共生特集 立正佼成会 月に一度のあおぞら図書 関係人口で地域盛り立ても
図書館ホールを活用した遊びスペースでボール投げに興じる子どもたち 東京都杉並区和田にある立正佼成会附属佼成図書館は昭和28年(1953)に開館。70周年を迎えた昨年5月から新たな取り組みを始めた。それが「あおぞら図書」である。普段は静寂なロビーは子どもたちの声が響き、ボール投げや輪投げなどに興じる。来場者は子どもたちだけではなく、幅広い年齢層に及んでいる。
佼成図書館が主催し、地元町会と自治協力会が協賛するあおぞら図書は、毎月第3土曜日の午前10時から午後2時までだが、夏休みの8月は25日の日曜日に開かれた。絵本をはじめ書籍が置かれ、読み聞かせも行われる。この日は特別に視聴覚ホールで地域のフラチームが出演し、練習の成果を披露した。
注目は鉄道模型(Nゲージ)。およそ2㍍四方のテーブルの上にレールが敷かれ、各種の車両が走り回る。これを目当てに、マイ電車を持参する親子もいる。レールの内側にあるジオラマをよく見ると立正佼成会本部周辺である。
あおぞら図書の“仕掛け人”は橋本雅史教団常務理事。中央学術研究所長などを兼務する。
「関係人口という考えがあります。『ソトコト』編集長の指出一正さん、『東北食べる通信』編集長の高橋博之さんが7年ほど前に唱えました。人口減少が続いている島根県の山奥に多くの若者が行くようになり、徳島県や和歌山県田辺市でもそうです。例えば、月曜から金曜までは都市圏で働き、週末は田舎で過ごすというものです。ただ過ごすのではなく、道路の補修など高齢者ではできないことを自分事として作業する。立正佼成会は関係人口の考え方を採り入れることが出来るのか。それが最初の問題意識でした」
蔵書数20万冊の図書館。専門書・宗教書も豊富。しかし活用されているとは言い難い。さほど地域社会に知られていない――。そんな状況を打開して「佼成図書館のファンクラブ」をどう作るか。橋本氏の基本方針は明解だ。▽お金をかけない、▽他者からアイデアをいただくのではなく自分たちが考えできることをする、▽生き生き、ワクワク、みんなが喜ぶこと、▽もちろん安全第一、というものだ。
2年後に閉園が決まっている府中佼成幼稚園の園長でもある橋本氏は、子ども用の椅子や遊具、絵本などを運び入れた。「すべてタダです」と橋本氏は笑う。人気の鉄道模型も橋本氏の私物。利用されていることに本人も目を細める。
橋本氏がこんな企画があるよ、とあるグループに声をかけところ、「平均85歳」の女性たちが「手伝いたい」と手を挙げた。読み聞かせをしていると、「元気をもらえる」と彼女らの生きがいにもなっている。(続きは紙面でご覧ください)
2024/9/19
共生特集 曹洞宗 〝杖〟のような存在に 自死者供養の会が17年目
茶話会の準備をする僧侶たち 自死者の遺族や知人が思いを分かち合う自死者供養の会「祈りの集い」が7日、東京・芝の曹洞宗檀信徒会館で営まれた。教団がグリーフケアの場を継続して設けるまれな取り組みは今年で17年目を迎えた。
祈りの集いを始めたのは2008年。国内の自死者数が年間3万人を超える状態が続いていた時期だった。「社会とつながり役立ちたい」との思いで立ち上げ、宗教者が向き合うべき問題として残された人たちの支えとなっている。
毎年2回、3・9月の彼岸の頃に開催。北海道から九州の広い地域から参加がある。宗教・宗派は問わず、法要は曹洞宗の作法で執り行う。半数ほどは宗門の信徒でないという。コロナ禍に申し込み者のみ視聴できるオンライン配信を開始し、遠方の人や高齢者も参加しやすくなった。
総合研究センターと宗務庁の職員が主体となって営んでいるが、管区教化センターや宗務所、一般寺院など希望する僧侶も研修を受けた上で参加している。取り組みが広がってほしいとの願いもある。
この日は約30人が来場し、約100人がオンラインで参加した。参加者は位牌のほか腕時計や財布、衣服、キーホルダーなどの遺品を持参する。当日に来られない人のために預かった手紙なども祭壇に供え、亡き人へ祈りを届けた。法要後には僧侶も加わって茶話会を開き、悲嘆を分かち合う時間を過ごした。手紙などは集いに関与する僧侶が寺院で供養し、お焚き上げしている。
「大事な人を自死で亡くす悲嘆が消えることはないのかもしれない。だから、必要なときに寄りかかってもらえる“杖”のような存在になれたら」と、2008年の初回から集いに携わる同センター未来創生研究部門主任研究員の久保田永俊氏は継続の重要性を強調する。「死は誰もが迎え、死別の悲しみは誰もが直面しうる。普段通りに接することも大切なことです」と話す。
20年近くの歳月を経る中で「巣立つ」人もいる一方で、高齢で来られなくなった人もいて、時には異変を感じ取ることもある。なるべく特別視しないよう心がけるが、個別に交わす手紙の文中に違和感があったときには僧侶から連絡することもある。
親族ではない恋人や友人などは法事に呼ばれない場合があり、そうした関係者からの求めもあって参加者は遺族に限定していない。LGBTQの当事者もいる。中には葬儀や法事も十分な形で行えなかったり、自責の念を抱え込んでいたりする遺族もいる。
久保田氏は「悲嘆を表出できない人をどうやって受け止めるか。安心して悲しむことができるように、宗教者が受け皿となれるよう努めたい」と語った。
2024/9/19
佐賀空港オスプレイ訴訟 地元住職意見陳述 「中立」は戦争への加担
民間空港である九州佐賀国際空港(佐賀空港、所在地=佐賀市)に輸送機オスプレイを配備する陸上自衛隊駐屯地が建設されつつある中、九州住民による反対運動が広がっている。7月28日には住職を含む245人が原告となり、国を相手どって駐屯地建設工事の差し止めを求める訴訟が提訴された。今月6日には第1回口頭弁論が佐賀地裁で開かれた。
この訴訟は先行して4人の漁業者・地権者が差し止めを求めた裁判との併合審理となっている。原告の共同代表の一人である藤岡直登氏(佐賀市・浄土真宗本願寺派真覚寺住職)は意見陳述で、仏教界がかつてのアジア太平洋戦争で侵略戦争に協力し、門信徒を死地に赴かせつつ教団を維持してきた歴史を振り返り、「その反省・記憶は風前の灯」と危惧。2014年に集団的自衛権を政府が容認したことをはじめ、防衛予算の増加、沖縄などでの軍事基地新増設などを挙げ「その大きな動きの一つとして佐賀の地元でオスプレイ基地がいま着々と造られている」と強く問題視した。
藤岡氏は、他の僧侶から寺は政治的に中立でなければいけないという声も聞いたというが、「中立」を口実に沈黙することは「大きな動きを支えつつのみ込まれること」だとし、4人の地権者(陳述書によるといずれも真宗門徒)を孤立させてはならないとの思いから提訴したと裁判官に告げた。
藤岡氏は真宗遺族会会員で、長く平和運動に取り組んできた。原告共同代表には日本バプテスト連盟牧師の野中宏樹氏も加わっている。国は12月6日の次回期日で反論する予定。
佐賀空港へのオスプレイ配備は安倍政権下の2014年に小野寺五典防衛大臣が古川康知事に計画を告げたことから始まる。中国の軍事力の増大等を理由に島嶼部防衛のための兵器増強を企図する政府と、赤字が続く空港側の思惑が一致したとみられる。昨年6月に駐屯地は着工され、住民の反対運動は加熱。佐賀空港駐屯地に配備される予定のオスプレイが暫定配備されている千葉県木更津市でも、墜落事故や低空飛行による家屋の損傷を危惧する声がある。
2024/9/19
亀岡市仏 ゲームで災害時の判断学ぶ 「風水害24」で体感 命が助かる方途 シミュレーション
市仏の防災活動を話した満林会長 「防災の日」の1日、京都府亀岡市のサンガスタジアムで防災研修ゲーム「風水害24」の体験会が行われた。主催はさまざまなゲームのファシリテーター資格を持つ乾昌志氏が代表を務める「JOY&JOIN」。亀岡市仏教会会長の満林晃典氏(曹洞宗真福寺住職)もゲスト参加し、同会の災害への取り組みを語った。
風水害24は慶応大学特任教授の筧裕介氏が代表を務める(特活)イシュープラスデザインが開発した、大型台風が接近する直前の24時間にどのような行動をすれば自分と周りの命が助かるかをシミュレーションするゲーム。農家や愛犬家などから自分の役割を選び、「家の補強をする」「ハザードマップを手に入れる」「テレビで情報を得る」など選択肢を組み合わせ台風が通り過ぎるまでを生き延びるミッションだが、土砂崩れや避難所でコロナが発生するなどのイベントが続発する。スタート時に100点ある体力がゼロになるとゲームオーバーだ。記者も初対面の女性とチームを組んでプレイしたが、農家の役割を選んだため河川敷にあるビニールハウスの補強に向かって失敗、良かれと思ってやった行動で体力が減ってしまうアクシデントが発生。シビアなゲームだ。
風水害24をプレイする様子 自力で逃げられない認知症高齢者や障がい者を助けるかどうかも問われる。助けるにこしたことはないが、無理に助けようとして自分が死んで共倒れになる危険性もある。あるプレイヤーは「声をかけたのに助けられなかったことが心残りです」と感想。乾氏は「そういうモヤッとした気持ちになり、災害の時にどうしたらいいか考えさせられるのもこのゲームの特徴です」と話した。
ゲーム後には満林氏が講話。市仏は昨年10月に亀岡市と、今年3月には同市社会福祉協議会と防災協定を結んでおり、いくつかの寺院は実際に避難者を受け入れた実績もある。満林氏は能登半島に行った際、「市の人から亀岡市は一番に水洗トイレを持ってきてくれましたね、と言われた。能登では未だに水が貴重」と振り返り、市仏でも井戸水を災害時に提供できる取り組みに動いているという。「井戸水を飲むのはハードルが高いが、生活用水になら使える」。
避難所にゴザと坐蒲を持ち込み簡易坐禅スペースを作るアイデアも。「避難所で坐禅なんてやってる暇があるのか?と言われるかもしれませんが、さっき風水害24をやってみてどうです?地に足がつかなかったでしょう?」と気づかせ、そういう時にこそ坐って心を落ち着け、限られたリソースの中で何ができるかを考えるべきだとした。
2024/9/19
念法眞教 開祖生誕139年祭挙行
お祝いの歌を熱唱する園児たち 念法眞教は9日、大阪市鶴見区の総本山金剛寺で開祖小倉霊現初代燈主(親先生)の「ご生誕139年祭」を挙行した。全国の支院主管者や専従教師、各地の信徒ら約1700人が参拝。桶屋良祐燈主を導師に法堂で「報恩お誓いのお勤め」を営み、来年4月1日に開白する立教100年大祭に向けて親先生への報恩行となる現世界極楽浄土実現への精進を誓った。
親先生の御影の前で、僧侶と信徒が心一つに阿弥陀経を読誦。念法眞言、念法開祖御宝号を力強く唱和して祝祷を捧げた。
続いて記念式典。明治19年9月9日の重陽の節句という「9=苦」が「3つもある」日に生まれた開祖の言葉「世の中の全ての人の苦を取るために生まれてきたと思っている」を再確認し、「久遠実成阿弥陀如来の応現身」として年間300日以上全国を巡教した親先生の足跡を胸に刻んだ。
支院主管者代表5人が、親先生にケーキのプレゼントを順番に贈呈。手渡された桶屋燈主が開祖御影の宝前に届けた。
桶屋燈主は、親先生の言葉「私の姿が見えなくなっても、永遠に念法信徒を守り、幸せになってほしいと願っている」を紹介。「念法信心の同行二人」を説き、「来年は立教100年、親先生は140歳」と述懐した。
念法幼稚園の園児代表66人が登壇。「親先生、お誕生日おめでとうございます」の言葉と共に園児2人が桶屋燈主に親先生へのプレゼントである輪飾りを手渡し、全員で元気よく「お祝いの歌」を合唱した。桶屋燈主からは「親先生からのプレゼント」として、園児たちにお菓子が贈られた。
女性修道生9人がご詠歌踊りを奉納。本山教区コーラス隊のリードで、参拝者全員が「親先生を讃える歌」を熱唱した。
一宮良範教務総長は立教100年大祭のスローガン「おかえりなさい、本山へ」を挙げ、大勢の参拝を呼びかけた。
午後は立教100年に向けて体験発表を実施。当日の様子はモバイル金剛寺で全国配信した。
前日にはコロナ禍以来5年ぶりに前夜祭を開催。法堂内に櫓を組み、約400人が念法音頭や念法小唄から成る念法踊りで太鼓や鉦を叩きながら法悦に浸った。
2024/9/12
仏教と社会のつながり学ぶ 武蔵野大の学生が刑務所訪問 教誨の現場をフィールドワーク 教誨師を選択した仏教者に触れる
府中刑務所庁舎 浄土真宗本願寺派の宗門校・武蔵野大(東京・有明)が開講する仏教と社会のつながりを探る授業で、1年生の18人が3日、宗教教誨の現場となる府中刑務所(東京都府中市)を訪れた。実際に教誨が行われる教誨室などを見学し、教誨師からも話を聞いた学生たちは、分け隔てなく受刑者と向き合う仏教者の姿勢に触れた。
授業は「仏教三昧フィールド・スタディーズ」。同大では主体的な学びや実践力の強化に向けて学外学修を行う必修科目があり、国内外で実施される約70の授業から選択できる。「仏教三昧」はその一つで、受講者が抽選になるほど人気があるという。名刹や美術館を訪れて仏教文化に親しむほか、教誨師の営みを通して仏教の社会実践を学ぶ。
来年に巣鴨から移転して90年を迎える府中刑務所は収容定員2668人の国内最大の刑務所で、再犯者や外国人など現在1700人弱を収容する。学生たちはこの日、調査官から現状の説明を受け、刑務所が抱える課題についても考えた。
約2割が高齢者
受刑者数は人口減の影響もあってほぼ右肩下がりだったが、昨年から増加に転じ今年も増加傾向にある。外国人が370人近くを占め、専門の国際対策室が約20カ国語で対応している。ほとんどは初めての入所となるが、累犯者が多い日本人の入所回数は平均5回。最多は25回の受刑者もいる。
暴力団排除条例施行以前の2000年前後には約7割に上った暴力団関係者は約4割に減少。そのため、現在は多数を占める高齢者や疾患のある受刑者向けの運営に切り替わっている。受刑者の約2割が高齢者で、最高齢は95歳。精神疾患や身体疾患で医療上の配慮が必要な受刑者は約7割いる。
受刑者一人あたりの収容費用は年間約300万円。医療費も国費から支出されている。受け入れ先のない出所者の再犯率は6割以上で、2人に1人が再び刑務所に戻るという。再犯を繰り返し、通算50年以上入所する今は高齢者となった受刑者もいる。
調査官は「批判もあるだろうが、出所後の住居や職を探すなど社会復帰の手立てに力を入れている」と話した。
東本願寺の厨子を安置
生体認証が必要な扉が解除され、学生たちは高さ4㍍の塀の向こう側に入った。通常の参観コースとは異なり、特別に教誨室へ向かった。仏教と神道、キリスト教の3部屋がそれぞれ別に設置されているのは珍しい。
10畳以上の広さがある「仏教教誨室」は畳敷きで、部屋中央にテーブルと一対の椅子が置かれていた。仏壇には阿弥陀如来像が安置されている。同行した府中刑務所教誨師会の田澤衛会長(港区・本願寺派広称寺住職、東京都教誨師会会長)は「刑務所が用意した仏さまではありません。真宗大谷派の志ある教誨師によって持ち込まれました」と説明した。部屋の脇には坐禅用の坐蒲が積まれ、禅宗の教誨師が使用している。「神道教誨室」は天理教の教誨師も利用。祭壇が設けられ、「神道」と書かれた扁額が掲げられていた。(続きは紙面でご覧ください)
2024/9/12
日蓮宗現代宗教研究所・中央教研 仏教は戦争を抑止できるのか 戦争協力検証し人間の本質問う 諌暁や常不軽精神重要
戦中や現在の日本仏教のあり方が問われたパネル討論 日蓮宗現代宗教研究所(現宗研、赤堀正明所長)は5・6の両日、中央教化研究会議を東京都大田区の宗務院で開催した。「仏教から戦争を考える」をテーマに取り上げ、国際政治学や仏教宗派の戦争協力、仏教は戦争を止められるのか、という観点からパネル発表が行われ、終戦80年目を迎える来年に向けて宗門のあり方も議論された。
国際政治学者の池上萬奈氏(立正大学非常勤講師)が「国際政治から見た戦争とは」と題してパネル発表。ロシアのウクライナ侵攻やイスラエル・パレスチナ戦争の歴史を解説し、国際法の「強制力がない」「内政不干渉」の2原則を説明した上で、戦時中の中立国を例に「戦争をしないと宣言すれば、どこも攻めてこないというのは、あまりにも楽観的」とした。
一方で、大国の意向が反映される理不尽な国際政治の現実において、軍事力や経済力といった国力(ハードパワー)だけでなく、多くの国から信頼される文化や国民性で他国を惹きつけるソフトパワーの重要性を指摘。「個々人の力が大きなソフトパワーを生み出す、そこに仏教やお題目の力もあるのではないか」と提起した。
「近代以降の日本仏教諸宗派の戦争に対する立場と主張について」と題して発表したジャーナリストの鵜飼秀徳氏(浄土宗正覚寺住職)は戦中における各宗派の植民地政策の中での大陸布教や戦闘機・軍艦の献納、従軍僧の派遣など戦争協力の歴史を振り返った。
今でも寺院に残る戦時戒名や顕彰碑など寺院の戦争の痕跡を辿りながら、「なぜ慈悲を説く仏教教団が戦争協力をしたのか」を究明。明治維新の神仏分離令と廃仏毀釈まで遡り、「いきなり戦争協力したのではなく、連綿と続く権力構造の中で、各教団が立ち直るために新政府にすり寄るようになった」と指摘した。
兵器の献納では資料を交え、浄土宗が戦闘機に「明照號」、日蓮宗は「立正報国號」と名付けた事例を紹介。「特攻機に宗祖の大師号を付け、言わば〝法然号〟と名付けていた。阿弥陀様の像やお題目が置かれ、お題目の下に特攻機が突っ込んでいった」と各宗派の協力体制を繙いた。
現宗研の赤堀所長は「人はなぜ戦争をするのか」と題して発表。アインシュタインとユングの書簡を手がかりに、思想家ロジェ・カイヨワや心理学者のフロイトの戦争への見方を紹介し、戦争が人間の本能に根差す行為であるとして、「仏教は戦争の原因となり得るか」「仏教は戦争を止めることができるか」を考察。
ロシアのウクライナ侵攻や戦前の日本の状況などを見ながら、人間の善悪や帰属意識によって唱えられる正戦論を社会学者ユルゲンスマイヤーのコスモス(秩序だった意味の体系)思想から説明し、「社会主義や民主主義に限らず、秩序だった意味の体系を人々に提供する宗教も戦争の原因になり得る」と危惧した。
その上で、「人間に闘争を好む本性があるからこそ、同時に相反する慈悲の心が発揮されるのが釈尊と宗祖が説く仏教」と説示。釈尊と宗祖に共通する為政者に仏教を説き続ける「諫暁」や敵であっても敬う「常不軽」の精神の重要性を語った。
パネル発表や登壇者の討論を受けた分散会では6グループに分かれて議論が行われた。2日目の全体会議では、来年の終戦80年に向けて宗門のあり方を問い直し、声明文を出すべきではないかとの意見も見られた。
2024/9/12
パイプオルガン演奏しガザ地区の平和を願う イスラエル出身 ガザヴィさん 立正佼成会大聖堂に響く
大聖堂7階で演奏するガザヴィさん イスラエル生まれのキリスト教徒(カトリック)でエルサレムのフランシスコ会聖地特別管区首席オルガニストのヤクーヴ・ガザヴィさん(35)の演奏会が7月下旬から9月上旬にかけて開かれた。6会場のうちキリスト教会が5カ所。唯一仏教施設で行われたのが東京・杉並の立正佼成会大聖堂。8月31日夕、紛争が続くパレスチナ・ガザ地区の平和を願うパイプオルガンの音色が響き渡った。約700人が聞き入った。
ガザヴィさんを招へいした認定NPO法人聖地のこどもを支える会の井上弘子理事長がコンサートの趣旨と活動について説明。30年程前に聖地で物売りをする子どもたちに出会い、その子どもたちを支援しようと設立されたのが同会だが、戦闘に直面し「なんとかガザを平和にしたい」という思いから企画した。
大聖堂にカトリックの音楽が響き渡った ガザヴィさんは4階から演奏場所の7階に移動。ポール・フェイ作曲の「プレリュード(前奏曲)」を皮切りに、予定の5曲とアンコール1曲を次々に演奏。本尊・久遠実成大恩教主釈迦牟尼世尊と共に参加者たちはパイプオルガンの響きを五感で聞き、感じ取った。
演奏後、挨拶したガザヴィさんは、「まずはヒロコさんにありがとう」と今回の来日とコンサートに尽力した井上理事長に感謝。続けて立正佼成会と参加者に「ホントウニアリガトウゴザイマス」と日本語で謝意を伝えた。
ガザヴィさんはさらに、「昨年10月7日に戦闘が始まりましたが、じつは何十年も前から続いているのです。ガザは人道危機に直面しています」と吐露。一方で「人質となった方々が早く家族の元に帰れることを願っています」と拘束されているイスラエル人の解放も主張し、支援を要請した。
ガザヴィさんは何度も来日し、東日本大震災ではボランティアとして活動した経験もある。
今回の大聖堂での演奏は、世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会の役員だったカトリックの髙見三明大司教が立正佼成会を紹介したことから実現した。
2024/9/5
エンディング産業展2024 ニーズの多様化を実感 光り墓、前方後円墳、資産コンサルなど 9宗派僧侶による合同法要も
僧侶による合同法要 葬儀・埋葬・供養・相続などの終活産業に関する専門展「エンディング産業展2024」(主催=東京博善)が8月28日から29日まで、東京ビッグサイト(江東区有明)南展示棟で開催され、2日間で計約1万3千人が来場した。
今年は174の企業・団体が出展。34本の専門セミナーやイベントが開かれた。初日は、新型コロナウイルスや能登半島地震の犠牲者を供養する合同慰霊法要が(一社)仏教情報センターの9宗派僧侶によって営まれたほか、俳優の石田純一さんの生前葬も行われ、注目を集めていた。
セミナーの一つ「僧侶のためのエンディング産業展見学ガイドツアー」では、講師の薄井秀夫・寺院デザイン代表と僧侶参加者らが出展ブースを巡り、最新の動向を探った。
同展は今回で10回目。葬儀や仏壇、墓石などを扱う企業の出展が多かったが、薄井氏によると「今は多様化が進んでおり、葬儀や墓石もどれかがメインストリームになることはあまりない。その代わり、カテゴリーを超えた企業の出展が増えている」という。(続きは紙面でご覧ください)
2024/9/5
宗門系大学サバイバル 佛教大学編 伊藤真宏学長に聞く 法然になれ 熱いうちに打てば学生に響く
日本に仏教系大学は多数あれど、「佛教」と大学名に入れている四年制大学はただ一つ、佛教大学(本部=京都市北区)だけだ。明治元年(1868)に浄土宗総本山知恩院内に設置された勧学院を淵源とし、1913年設立の佛教専門学校など組織は変遷しながら昭和24年(1949)に新制大学として発足した。定員80人の仏教学部仏教学科だけの単科大学だった佛大は、現在、市内に2つの拠点キャンパスと3つのサブキャンパスを持ち、通学生・通信生を合わせると1万1千人を超える大型大学に。そんな中で僧侶養成の意義は何なのか。伊藤真宏学長がユーモアもふんだんに交えて語った。
佛大は開学100年の2012年(山極伸之学長時代)に10年先の目標を掲げた「ビジョン2022」を発表した。その基本方針の第一にあるのが「本学のこれまでの歴史と伝統を踏まえながら、困難な社会状況にあっても、その力を十分に発揮することのできる優れた浄土宗教師の養成につとめます」との一文だ。優れた浄土宗教師の養成は達成できたか。「もちろん、うちの大学を出てすぐに超一流の、世の中の指導者的な僧侶になっているとは思いません。しかし、いずれ超一流の僧侶になれるように4年間の学びの中で根源的な素養は与えられていると思います。卒業して10年後、30年後、あるいは棺桶に足を入れた後でも、檀信徒や一般の人から『あのお坊さんに出会ってよかった』と思ってもらえるように種を撒いているわけです」と、自信をのぞかせる。
「私はよく、学生には『法然さんになれ、なれへんのなら真似だけでもせえ』と言っているんですよ。法然さんの言葉なり行動なり、形だけでも身につけろと」。末法の困難な時代、どんな人でも救われることを示すために浄土宗を開宗した法然上人は、確かに現代でも僧侶の理想像だ。「私たち僧侶のやることは、人を救うという一番困難だけどやりがいのある仕事だ。他の職業と比べても、これほど色々な才覚やテクニックを学ばなければできない仕事はない。これをやりがいを持ってやれるチャンスが君たちにはある…こんなことを言うと、鉄は熱いうちに打てという言葉のように、確かに学生には響いて、わかってくれるんですよ」と相好を崩す。
一方、師僧すなわち親世代にはやや辛口。伊藤学長も寺院生まれだが「浄土宗の問題として、自分の子どもに自分のお寺を継がせることが大きな弊害になっているのではないか」と指摘する。「世襲だと、檀家さんは『住職に子どもがいるからこの寺は安泰だ』と思ってしまうし、そうなると寺の維持も甘く考えてしまう。師僧(親)だって、子どもが跡を継いだら財産も引き継がれて安心だ、となって甘えてしまう。そのように『家業』を継ぐ形になるのは寺の継承とは違う気がします。(良い後継者でないなら)息子であっても寺を継がせない、という覚悟も師僧に必要ですよ」とのこと。生まれた寺でなくてもどこに行っても通用する僧侶こそ、現代に求められているのだろう。(続きは紙面でご覧ください)
2024/9/5
高野山大学 中国・清華大学と提携 高野山フォーラムを共催へ
清華大学を訪れた添田学長(左から5人目)ら 和歌山県高野町の高野山大学(添田隆昭学長)は8月20日、中国・清華大学からの申し出を受けて同大と包括提携を結んだと発表した。清華大学は中国共産党の習近平総書記や胡錦濤前総書記らの出身校。
和歌山県が2021年、清華大学との包括交流を開始。昨冬には和歌山市で記念シンポジウムが開かれ、添田学長もパネラーとして参加した。
その後、基調講演を行った清華大学日本研究センター主任の李廷江教授が高野山大学を訪問。添田学長が弘法大師や高野山の歴史、高野山大学大学院で博士の学位を取得した徐東軍講師(清華大学卒業生)を紹介するなどしたところ、李教授は高野山大学が毎夏、東京大学先端科学技術研究センターと共催している高野山会議に強い関心を示したという。
今年に入り清華大学から県を通して高野山大学に「高野山論壇(フォーラム)」の共催が提案されたのを受け、添田学長が7月24・25日に岸本周平県知事、和歌山大学の本山貢学長らと共に訪中。添田学長は北京市の清華大学で、オンラインも併用して「日中交流史上の巨人 空海」をテーマに基調講演を行った。
翌日、添田学長の帰国を追うように清華大学共産党委員会の邱勇書記と李教授が来日。高野山大学で両大学提携の覚書に署名した。
清華大学の覚書には、高野山会議を念頭に「密教の聖地高野山には深い共生精神が根付いており、宗教・科学・芸術など多分野の学者や実践者を惹き付けている」と明記。高野山大学側は清華大学を「国際的な文化・芸術・教育と産業イノベーションの交流・協力を積極的に推進してきた」と評価している。両大学は共通認識として、「高齢化や環境破壊などの現代的課題に対処すべく、国境を越えた学際的な高野山フォーラムを開催し、未来の世界を共に構想し世界に発信する」と表明した。
添田学長は、「日中両国を代表する東大と清華大は自分たちにはない知恵が高野山にあると考えている」と指摘。「両大学は千年超の蓄積がある密教の智慧の継承者が本学であることを知り、共にその智慧を現代社会の問題解決に生かしていこうとしている」と語った。
2024/9/5
特別読切 最初の特攻死は浄土宗開教師の子息だった! 法政大出身 学徒特攻隊の第1号か 大和隊隊長 久納好孚
久納好孚(法政大学『学び舎から戦場へ』より) 5月下旬、曹洞宗僧侶でエスペランティストの齋藤秀一師の顕彰活動や反戦僧侶の発掘に努めている名古屋・龍潭寺の別府良孝住職から問い合わせメールが届いた。「久納好孚(くのうこうふ)師を御存知でしょうか?」「〇〇寺様(所在知略)朝鮮支院で得度なさったようです。/浄土宗のラゴです」とある(「ラゴ」は釈尊の子どもを示す羅睺羅(ラゴラ)に由来し、僧侶の子どもという意味)。参考書籍として大野芳著『神風特別攻撃隊ゼロ号の男』をあげ、最初期の特攻隊員であるらしかった。それから同著を古書店から購入し、久納好孚(1920~1944)の取材に着手した。
特攻隊が正式に組織されるのは昭和19年(1944)年10月20日。場所はフィリピン。特攻隊の生みの親、大西瀧治郎中将が同月17日、マニラに赴任した。役職は第一航空艦隊司令長官。アメリカ軍のレイテ侵攻を受けて翌18日にはそれに対応するため「捷一号作戦」が発動された。すでに戦局は劣勢状態にあり、大西長官は翌19日に航空機による体当たり攻撃を企図し、参謀たちに打ち明けた。19日夜から20日未明にかけて人員を含めて決まった。隊名は「神風特別攻撃隊」。それまでも体当たり攻撃はあったが、特攻隊と称されるのは、これ以後となる。本居宣長が詠んだ歌〈敷島の大和心を人問はば朝日に匂ふ山桜花〉から、敷島隊・大和隊・朝日隊・山桜隊で編成された。
10月25日朝、隊長・関行雄中尉率いる敷島隊全5機はマバラカット基地からレイテ島に向かった。米軍艦隊を発見し、250㌔爆弾を搭載した零戦は体当たりを敢行。護衛空母1隻を撃沈し、2隻に損害を与えた。予想以上の戦果だった。そのため最初の特攻攻撃とされた。そればかりではない。大野芳著『神風特別攻撃隊ゼロ号の男』(サンケイ、1980)によると、関行雄中尉が海軍兵学校(70期)出身だったことが大きな要素となった。
しかし、いくつかの刊行物は、久納好孚中尉を特攻第1号と表記する。敷島隊隊員を詳細にたどった森史朗著『敷島隊の五人』(光人社、1981)では、「事実問題として特攻第一号は久納好孚であることはまちがいない」としている。大和隊隊長の久納中尉は10月21日、セブ基地を3機で発進。「特攻攻撃の第一陣」(安延多計夫『ああ神風特攻隊』光人社、1977)とされた。途中、悪天候のために2機が帰投したが、久納機は戻らなかった。戦果は不明である。不時着や山への衝突などが考えられたため、発表も遅れた。昭和19年11月13日公表の連合艦隊司令長官の布告では、「第一神風特別攻撃隊大和隊」の最初に久納の名前が登場。特攻死とされた。24歳だった。(続きは紙面でご覧ください)
2024/9/5
大本山妙心寺 光秀ゆかりの「浴室」 修復資金をCFで募る
特別にこの浴室に入れる返礼品も 令和9年(2027)に迎える微妙大師650回忌の記念事業として臨済宗妙心寺派大本山妙心寺(京都市右京区)の各伽藍の修繕が行われるが、そのうちの一つ、重要文化財「浴室」の修復のクラウドファンディング(CF)が2日から10月31日まで行われている。
浴室は天正15年(1587)、明智光秀の母方の叔父である密宗紹儉禅師を施主として光秀の供養のために創建された、通称「明智風呂」。墓ではなく浴室にしたのは「主君である織田信長を討った逆賊という汚名を洗い流したかったから」という説もあるという。サウナのような蒸し風呂で、昭和初期までは実際に僧侶により使用されていた。しかし前回の修理から40年以上が経ち、劣化が甚だしいと苦境を訴える。
目標金額は1300万円で、限定御朱印や遠諱正当法要への招待など金額に応じてさまざまな返礼品も用意されている。詳細はCFの専用サイト「READYFOR」に設けられた特設ページで。
8月
2024/8/29
文化庁宗務課が回答 宗教法人の指定寄付金制度 原状回復に減築・縮小含む 能登半島地震復興の一助に 申請窓口 包括宗教法人も可能
(文化庁の資料より) 大地震で滅失・損壊した宗教法人施設等の復旧のため、宗教法人が募集する寄附金が一定の要件を満たすと寄附者が税制上の優遇措置を受けられる指定寄附金制度。運用にあたり「原状回復」が条件となるが、規模を縮小した場合も対象となることが明らかになった。本紙が文化庁宗務課にメールで問い合わせたところ、このほど回答があった。
7月19日、日本宗教連盟(日宗連)は石川県七尾市で公益法人セミナー「能登半島地震の地域コミュニティにおける宗教法人の現状と課題」を開催した。その際、文化庁宗務課員が指定寄附金制度と運用方法について説明した。指定寄附金制度は財務省の所管。阪神淡路大震災(1995年)東日本大震災(2011)熊本地震(2016)に続き、能登半島地震で4度目の導入となる。ちなみに熊本地震では26宗教法人が指定寄附金制度の対象となった。
セミナーでは地元、真宗大谷派能登教務所の竹原了珠所長が報告を行い、能登半島全体が消滅可能性自治体であり、過疎と超高齢化が進行し、後継者不在の寺院も多く、寺院の復旧・復興が困難な状況にあると話した。大谷派能登教区には353カ寺ある。
復旧・復興が見通せないなか、寺院の原状回復はできるのか。当日のセミナーでは原状回復の範囲に関する発言はなかった。宗務課に問い合わせたところ今月20日、メールで「原状回復の範囲であれば減築・縮小も原則申請可である旨、財務省から回答を得ました」(宗務課法規係)との返信があった。
すなわち旧伽藍より小さいサイズでの再建計画でも指定寄附金制度の対象となる。セミナーに参加した僧侶は、「過疎や高齢化といった能登の状況は、こちら(東海地方の町)も同じ。仮に災害に遭えば現在の伽藍をそのまま復活させるのは難しい」と述べ、原状回復に減築を含めることを評価する。
セミナーで説明した宗務課員は、東日本大震災と熊本地震では申請し確認を受ける期間は2年間だったが、今回は3年間に延長。その理由として「非常に大きな傷跡を残しており、長期にわたると予想されると財務省が認めた」ことによると説明した。
運用にあたっては、▽募集金額を超えた場合には優遇の対象とならない、▽既存の法人口座ではなく専用口座が必要、▽報告など情報公開が必要――などの注意事項を提示した。
セミナーの質疑で集中的に提起されたのが指定寄附金制度を包括法人(教団本部)が窓口になって欲しいという要望だった。被災した真宗大谷派寺院の僧侶たちが相次いで発言し、より多くの人から寄附を受けるために「一末寺がお願いしても動いてくれない。できれば宗派が窓口になって欲しい」と述べた。制度上は、包括宗教法人が窓口となることは可能だ。なお宗務課によると、これまでに包括宗教法人が指定寄附金制度の窓口となった事例はないという。相談・問い合わせは文化庁宗務課法規係(☏03-5253-4111代表)へ。
2024/8/29
お仏壇のはせがわ「お墓実態調査」 後継者不要のお墓 需要増加 川崎市・蓮花寺で報告説明会 一般墓と永代供養墓が半々
「お墓実態調査」の結果より 仏壇・墓石販売などを手がける㈱はせがわ(本社:福岡・東京、新貝三四郎社長)はお墓購入者や検討者等を対象にした「お墓に関する実態調査」を実施、従来の「一般墓」に比べて後継者が不要の樹木葬や納骨堂等の「永代供養墓」の需要が増加傾向を示す結果を発表した。近年、寺院と連携した樹木葬の企画を進める同社は7日、今年4月に樹木葬が開園したばかりの神奈川県川崎市の真言宗智山派蓮花寺でお墓調査結果の説明会を開催した。
はせがわの榎本哲治氏(商品グループ兼寺社聖石グループ長)が調査について説明。直近5年以内のお墓購入者・改葬者と検討中の40~70代の男女計600名を対象にインターネットでお墓に関する考えを尋ねた。
購入者・改葬者が選んだお墓の種類は「一般墓」が49%、「永代供養型のお墓(樹木葬・納骨堂を含む)」が49・7%と二分化。一方で購入・改葬の検討者の88・3%が「永代供養型のお墓」を選ぶと回答。「一般墓」44・7%を大きく上回り(複数回答)、今後の需要が増加傾向にあることを示した。
「一般墓」購入の理由は「伝統を大切にしたい」(42・1%)が最も多く、樹木葬等を選ぶ理由の上位は「後継者が不要」(73・4%)「管理が楽」(58・7%)が上位を占めた。榎本氏は「この2点をお寺が引き受ける形が樹木葬となってきている」と指摘。お墓選びでの「悩み」の上位も「墓の跡継ぎ」「定期的な管理」が占め、今後の「後継者不要のお墓の利用」については8割以上が「利用したい」と回答。寺院の永続性と管理者としての役割が期待されていることを示唆した。
榎本氏は墓地需要の変化を受けたはせがわの墓石事業の取り組みも紹介。3年前と比べて直近の受注構成比率で、「屋内墓地・樹木葬」が約6割となり「一般墓」を逆転。新たなニーズに対応すべく、寺院と連携して樹木葬の企画開発・受託販売を推進しているという。毎年10件ほどの企画を進めており、首都圏だけでなく地方都市でもニーズは高く「後々をお寺が管理してくれる安心感がある。これからも伸びると思う」と見通した。(続きは紙面でご覧ください)
2024/8/29
WCRP日本委 「AI倫理会合」の成果 岸田首相に面会し報告 首相 広島はAIでも重要地
岸田文雄首相(中央)を挟んで左から戸松義晴理事長、杉谷義純会長、庭野光祥理事、篠原祥哲事務局長(©WCRP日本委員会) 7月に広島で開催した国際会合「平和のためのAI倫理:ローマからの呼びかけにコミットする世界の宗教」の共催団体の一つである世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会は21 日、杉谷義純会長ら代表者4人が東京・千代田区の首相官邸を訪れ、岸田文雄首相と面会し、同会合について報告した。AI(人工知能)に対する今後の議論と深化の必要性を共有した。
岸田首相との会談は約15 分ほど。冒頭、杉谷会長が岸田首相のビデオメッセージや河野大臣の参加など政府として関心を寄せてくれたことに謝意を表した。メディアからの注目度が高かったことについては、AIという問題に向けられた社会的な関心の高さと共に、被爆地広島で開催された意義がよく理解されたのではないか、との認識を示した。また世界的な大手ハイテク企業の首脳陣が参加した一方で、国内企業の参加がなかったことについて、「日本でもこうした動きを広めていかなければならない」との決意を表明した。
岸田首相は、今年イタリアで行われたG7プーリア・サミットに招かれたローマ教皇フランシスコの講演に感銘を受けたと話し、「AIの可能性とリスク、さらには人間の本質に関わる深い部分に影響を与えるものであるということを認識し、その重さを感じた」「だからこそ、皆さまにもいろいろと考えていただき、ご指導いただくことは大切だと思う」と述べた。
岸田首相は昨年のG7広島サミットでAIに関する国際的なルール作りをリードするべく立ち上げた「広島AIプロセス」の賛同国が50 カ国を超えたことも紹介。広島という地はこれまで、核軍縮など「平和」が主なテーマであったが、それに加えてAIの世界でも重要な地になっていると強調。その上で、同会合が広島で行われた意義について理解を示し、「AIの議論はまだ始まったばかり。進化も著しく、どれだけ私たちの社会に影響を与えるか、わからない部分も多い。ぜひ宗教者の皆さまにも、引き続き今回のような努力を続けていただきたい」と期待した。(続きは紙面でご覧ください)
2024/8/29
広島市内に防災パークを新設 長野の豊山派僧侶が代表 日本笑顔プロジェクトが推進 7カ所目、全都道府県へ 重機アクティビティ普及へ
7月に本格オープンした「ノーボ」広島での重機講習 長野県小布施町の災害救援ボランティア団体(一財)日本笑顔プロジェクト(本部=真言宗豊山派浄光寺内/代表=林映寿副住職)が運営する総合防災アミューズメントパーク「ノーボ」(nuovo=イタリア語の「新しい」と農業+防災で「農防」の意)。令和2年10月に浄光寺近くの広大な遊休農地を借りて誰もが楽しみながら重機操縦などの防災技術を習得できる日本初のレジャー施設を開設して以来、「平時を楽しみ、有事に備える」をテーマに拠点を拡大。7月には、7カ所目となる「ノーボ」が広島市内にオープンした。災害多発の現在、引き続き拠点増設を進めていく計画だ。
笑顔プロジェクト(笑顔P)では「小布施町にあるだけでは災害が多い日本を救えない」として、全国47都道府県への「ノーボ」設置を発願。各地の企業などと契約を結んで長野県戸狩高原・千葉県成田市・埼玉県川島町・群馬県吉岡町・長野県飯田市に「ノーボ」を開設し、発災時に迅速に機能する全国ネットワークの構築に動き出した。
そして今夏、サーキットやサバイバルゲーム、キャンプなどが楽しめる広島市安佐北区の施設「スポーツランドTAMADA」内にも新設。5・6月のプレオープンを経て、7月から本格的にスタートした。運営主体は、食品卸や石油・住設エネルギー、旅行や保険など幅広く事業を展開している創業168年の地元企業広川グループ・広川㈱(広島市西区)。「強い広島に。広島を守る」をテーマに掲げている。
地域の防災イベントにも積極的に参加。重機アクティビティの人気は高い 10年前の災害の記憶
「ノーボ」広島がある安佐北区大林地区は、10年前の土砂災害の被災地。「スポーツランドTAMADA」を経営する㈱タマダの玉田敬司社長は当時、造園業用に所有していた重機で土砂をかき分けて道路を開通させるなど復旧活動に尽力した。
新事業に「防災」を採り入れた広川㈱は、簡易トイレ等の防災グッズの取り扱いから笑顔Pとの関係を深め、「ノーボ」開設を計画。災害時の重機の重要性を熟知している玉田社長が、施設内の敷地提供を快諾した。
7月から月2回、「災害現場で役立つ小型重機の操縦講習」を開始。今後、月1回のショベルカー解体講習も行うなど、各種防災講習を追加していく方針だ。5月からのプレオープンも含めると、8月20日現在で約50人が受講。10年前の広島土砂災害、6年前の西日本豪雨災害で被災した経験を持つ人が多いという。広川㈱経営企画部の江藤良輔氏は、「皆さん、被災した自宅や土地の土砂などを重機でかき出してもらったと感謝し、『今度は自分が誰かを助ける番だ』と話している」と説明。「私たちは、そうした方々の熱意の受け皿になりたい。8月から会員制で重機操縦の練習が継続してできるサブスク制度も発足させた。兵庫県や岡山県の会員もいる」と語った。(続きは紙面でご覧ください)
2024/8/22
宗門系大学サバイバル 駒澤大学編 永井政之総長に聞く 仏教学部 僧籍学生減も定員は毎年充足
駒澤大学(本部・東京都世田谷区駒沢)は、安土桃山時代の文禄元年(1592)に江戸・駿河台の吉祥寺(現在地は文京区本駒込)に創立された学林を起源とする曹洞宗の宗門大学。現在、1万4千人超が学ぶ7学部17学科、9大学院研究科などからなる総合大学に発展し、箱根駅伝の強豪校としても名を馳せる。学林の伝統を継ぎ、僧侶育成を担う仏教学部の入学者数は安定しているが、一般の学生も多い中、寺院子弟たちに僧侶としてどう育ってほしいのか。永井政之総長に聞いた。
総務広報課によると、仏教学部の過去5年間の入学者数は、2020年度以降は192人の定員を上回る200人前後で推移。定員が198人に増員された2023年度には204人、今年度は212人が入学した。
一方、入学者のうち子弟数の指標となる僧籍を持つ学生数は減少している。今年度は入学者数の約24%にあたる50人で、およそ10年前の2015年度から見ると、3割ほど減っている。
仏教学部に関しては、子弟数だけでなく入学者自体が減少しつつある宗門大学もあり、設置の意義を経営的視点から問う声も聞かれるが、永井総長は「駒澤大学のアイデンティティとして好意的に受け止められている」と自信をのぞかせる。
「仏教の教義と禅の精神を建学の理念とする大学にせっかく入学したのだから、学生には宗教の意味を伝えたい。もちろん押し付けるわけではないが、宗教を知れば政治や経済を含め、世の中をより深く理解できるようになる。人間を大切にするとはどういうことか。本学にはそうした希求に応えられる学びがある。多感な時期に一度しっかりと向き合ってほしい」
永井総長が期待するように、同大では全学部の1年生が必修科目として「仏教と人間」を履修する。宗教全般の理解を深めるとともに、仏教と禅の基本的な歴史や教義を学び、人間が生きる上で直面する問題に関しても考える内容となっている。授業の中で坐禅実習も行われる。なお、全学共通の「宗教教育科目」にも坐禅の授業があり、抽選になるほどの人気だという。
一方、子弟教育については、「古から問われ続ける変わることのない課題だ」と僧侶を育てるのは今も昔も難しいとの認識だ。“衣の着方も知らずに修行にやってくる”としばしば話題となる現代にあっては、「寺庭での教育の影響が少なくない」と見る。(続きは紙面でご覧ください)
2024/8/22
終戦79年 千鳥ヶ淵墓苑や原爆忌で供養や巡礼
日蓮宗 千鳥ヶ淵墓苑で戦没者供養 恒久なる安寧の実現願う
法要で挨拶を述べる田中宗務総長 日蓮宗は15日、東京都千代田区の国立千鳥ヶ淵戦没者墓苑で終戦から79年にあたる戦没者追善供養・世界立正平和祈願法要を厳修した。導師を務めた田中恵紳宗務総長は、戦没者の慰霊とともに世界立正平和の実現を祈念した。
法要は、東京4管区の宗務所長を副導師に営まれ、東京選出の宗会議員や日蓮宗檀信徒の国会議員などで構成される法華一乗会所属の国会議員も参列した。
田中恵紳宗務総長は「今私たちが生活している日常は、先人たちの命によって紡がれた〝有り難き〟時間の積み重ねであることを自覚し、一人でも多くの方が、それぞれの国や地域を思いやることにより恒久なる安寧、すなわち世界平和が一日も早く実現することを願ってやみません」と述べ、今後も宗門として戦没者の慰霊に努めることを誓った。(続きは紙面でご覧ください)
新宗連青年会8・14式典執行 すべてのいのちを尊ぶ世界へ 祈りの原点 アジア懺悔行が半世紀 祈りの原点
教団別礼拝の代表者らが六角堂前で祈りを捧げた(©新宗連) 新日本宗教青年会連盟(新宗連青年会)主催の第59回戦争犠牲者慰霊並びに平和祈願式典(8・.14式典)が終戦前日の14日夕、東京・国立千鳥ヶ淵戦没者墓苑で約400人が集い、オンラインを併用して執り行われた。
開式にあたり新宗連青年会の宮本泰克委員長(妙智會教団)が挨拶。「8・14式典」の祈りの原点であるアジア青年平和使節団(アジア懺悔行)が今年の3月で半世紀を迎えたと述べ、タイの地で泰緬鉄道建設によって犠牲となったアジア人労務者、連合軍捕虜をはじめすべての犠牲者を慰霊供養してきたと報告した。その上で「『すべてのいのちを尊ぶ世界』の実現に向け『世界平和』と『絶対非戦』への誓いを新たにさせていただきます」と力強く表明した。
六角堂に特設された祭壇に献灯及び折り鶴奉納後、教団別礼拝が行われた。加盟教団の内、解脱会、円応教、救世真教、思親会、松緑神道大和山、崇教眞光、善隣教、大和教団、玉光神社、福聚の会、妙智會教団、立正佼成会、大慧會教団の13教団代表が祈りを捧げた。(続きは紙面でご覧ください)
8月6日広島原爆忌 大阪で平和の祈り巡礼 米国から大司教も参加
四天王寺境内を巡礼する宗教者たち 広島原爆の日である6日午後、平和を求めて大阪市内を十数人の宗教者が行進する「平和の祈り巡礼」が開催された。代表は鹿児島市で長年、超宗教による平和運動を続けている鎌田厚志氏(曹洞宗直指庵住職)。永平寺での後輩である佐藤徹亮氏(大阪市天王寺区・浄春寺住職)と、同じく超宗教の平和運動に取り組む森俊英氏(堺市・浄土宗正明寺住職)が協力し、非核、パレスチナやウクライナの平和を無言の行脚で呼びかけた。
浄春寺で原爆直後の映像を見てその惨状を胸に焼き付け、原爆の火が入った提灯を持って出発。米国の核監視団体「ニュークリアウォッチ・ニューメキシコ」事務局長で禅者でもあるジェイ・コグラン氏が参加したほか、午前中に広島での平和祈念式典に出席していたカトリックのジョン・ウェスター大司教(ニューメキシコ司教区)も駆けつけた。まずは同区の和宗総本山四天王寺の英霊堂を参拝。迎えた新井順證総務部長は、英霊堂が本来は鐘楼堂として作られたが、その鐘は戦時中の金属供出により失われた歴史を紹介。広島県出身の新井氏は被爆二世であることも触れ、近年は原爆の記憶が風化し「かっこいいもの」のように考える若者が出てきていることも懸念。「戦争経験者に少しでも近い人で、本当の戦争は何なのかを伝えていかなければいけない」と語り、巡礼者たちの活動に期待した。(続きは紙面でご覧ください)
2024/8/22
西本願寺執行長に 藤實無極氏を選出
浄土真宗本願寺派本山本願寺(京都市下京区)は7日に開催された評議会臨時会で安永雄玄執行長の任期満了に伴う執行長選挙を行い、次期執行長に藤實無極(ふじみ・むごく)氏を選出した。任期は28日から2年間。
執行長選挙は大谷光淳住職が指名した候補者から評議員が投票で決する。藤實氏が9票、安部惠証氏が4票を獲得した(白票2)。
藤實氏は1942年2月生まれ。龍谷大学大学院修了。滋賀県彦根市の報恩寺前住職。宗派では東海教区教務所長や監正局長を歴任した。
2024/8/8・15合併号
戦争末期の金属供出で失われた勢至像を復元 入間市・西勝院(報告=君島彩子)
1945年3月に行われた勢至菩薩像の閉眼法要 埼玉県入間市の真言宗豊山派西勝院で、戦時期の金属供出によって失われた勢至菩薩像が79年ぶりに復元された。地下資源の乏しい日本では戦争によって武器生産に必要な金属資源の国外からの輸入が困難となった。金属類回収令によって、寺院の梵鐘や仏像などを含む様々な金属製品が供出された。戦争が長期化すると更に金属は不足し、社会的圧力によって金属供出は半強制的に進められた。
西勝院の勢至菩薩像は、戦争末期の1945年3月に御霊を抜く閉眼供養をおこない、約1カ月後に供出された。当時4歳だった名誉住職である水野惠光氏は、その日のことを今も鮮明に覚えているという。数名の軍人がやってきて勢至菩薩像の台座に登り、ハンマーで勢至菩薩像を何度も叩いた。「カーン、カーン」という金属音は今も耳に残っている。最終的に勢至菩薩像の頭部は落ち、軍人が足で蹴りながら袋に入れた。幼い惠光氏は怖くて最後まで見届けることができず、泣きながら母親の元に逃げた。
今年7月7日に行われた勢至菩薩像の開眼法要 戦後、しばらくして勢至菩薩像の空の台座に境内から多宝塔を移し設置していた。惠光氏の母は、勢至菩薩像を復元したいとことあるごとに話をしていたという。しかし、役場で働きながら若くして住職となった惠光氏は、忙しくなかなか勢至菩薩を再建することができなかった。息子の水野恵伸氏に住職を譲り時間に余裕ができたこと、そして昨年の宗祖弘法大師御生誕1250を年記念して勢至菩薩像の再建を決定し、翠雲堂の笠間幸治郎氏との相談の中で、閉眼供養の写真をもとに失われた像の姿を再現する事業がおこなわれた。
2024年7月、79年ぶりに勢至菩薩像がふたたび台座の上に設置され、開眼供養がおこなわれた。江戸時代中期ごろに作られたと考えられる金属供出で失われた勢至菩薩像の姿を蘇らせた。開眼供養には惠光氏の孫であり、現在、大正大学に通う水野恵芳氏も列席した。かつて戦争によって失われてしまった勢至菩薩像の記憶とともに、平和への祈りもまた受け継がれていくだろう。
報告=君島彩子(和光大学専任講師)
2024/8/8・15合併号
宗門系大学サバイバル 高野山大学編 添田隆昭学長に聞く 密教学科2/3は一般家庭出身
創立138年の伝統を誇る高野山真言宗の宗門校・高野山大学(和歌山県高野町)は、最も少子化の影響を受けている大学と言っても過言ではない。最盛期には文系の総合大学として1千人以上が在学していたが、平成半ば以降に相次いで学部学科を閉鎖し今は文学部密教学科と新設の教育学科のみ。学生募集で苦戦が続くが、オンライン主体の社会人コースを開設して活路を切り開いている。添田隆昭学長は、18歳人口だけにこだわらずに幅広い世代を受け入れる生涯学習機関としての大学像を模索。そのことが宗門の後継者育成の裾野を広げることにも繋がると断言する。
密教学科(入学定員30人)はここ最近、ほぼ定員を充たしている。寺院子弟は10人程で、多くは一般家庭から来ているという。「在家の学生に理由を尋ねてみると、『お坊さんがしているような修行を私もしてみたいと思った』という答えが返ってきた。僧籍を取得することが最終的な目標ではなくて、加行(けぎょう)(密教僧となるための百日間の修行)を体験することが彼らの目的だった。行を積んだお坊さんが持っている雰囲気に憧れているのだと感じた」。添田学長は「この傾向は意外だった」と若干の戸惑いを見せつつ、「密教学科の入学者は若者だけでなく、男女問わずに定年退職後の人もいるなど幅広い。皆、モチベーションは高い」と密教教育の可能性に言及する。
「一般家庭から来た学生は、大学で行を経験して企業などに就職していく。この点は普通の文系の大学と変わらない。彼らにとって僧籍は数ある資格のうちの一つだが、他の大学では取れない特別なものという位置付けだ。就職面接などで『高野山大学で僧侶の修行をしてきました』と話すと、企業側から『これは特別な人材だ』と評価されたという事例もある。中には結婚して入寺したり、真言宗各派の宗務所など寺院関係の求人募集も来ているのでそちらに就職したりするケースもある。そうした縁から結果的に住職になる人もいる。このように一般家庭出身者も含めた後継者を育成するための裾野を広げていくことが、本学の大きな役割の一つだと思っている」(続きは紙面でご覧ください)
2024/8/8・15合併号
日本仏教保育埼玉大会 テーマ「こころ・子ども・いのち」 少子社会の役割考える
開会式では普門院幼稚園の園児たちが献灯献花した (公社)日本仏教保育協会(日仏保/小澤憲珠名誉会長、髙山久照理事長)は7月25・26日、さいたま市大宮区の大宮ソニックシティで第37回全国仏教保育埼玉大会(田中雪心実行委員長)を開催した。大会テーマ「こころ・子ども・いのち」、サブテーマ「子どもたちが輝く未来にむけて 仏教保育が果たす役割とは」を掲げて、社会課題に対応した「仏教保育」の在り方を考えた。全国各地の仏教園から約300人が参加した。
昭和61年(1986)の第19回大会以来2度目となった埼玉大会。開会式では普門院幼稚園の園児たちが「ののさま」に灯りと花をお供えし、各地での災害の犠牲者や仏教保育に携わった物故者に黙祷を捧げた。
小澤憲珠名誉会長(浄土宗大本山増上寺法主)が式辞を寄せ「子どもたちの輝く未来のためには仏教に基づく保育があってこそとの強い思いがある」と大会テーマの意義を確認し、実りある大会を祈念した。
髙山理事長は仏教園でも園児が減少し、保育者が集まりづらい状況があるとし「少子化ではなく少子社会に変わってきた」と提起。「子ども家庭庁」が発足し、社会全体での子育て支援の充実を目指すなか「仏教保育を実践する私たちも、子どもの社会的存在の意味を再確認し、産み育てやすい社会、一人ひとりの子どもが健やかに成長できる社会の実現に資する保育現場を構築する必要がある」と問題意識を示し、社会の変化に適応した「仏教保育」の在り方を考える大会となるよう期待した。
実行委員長の田中氏は世界で広がる戦争と犠牲になる子どもたちの姿に「本当に悲しくなる。動物はケンカをしてもある程度でやめるが、人間はどうして動物より劣った行動になるのか。本当に情けない」と吐露し、「子どもたちの笑顔が未来の希望に満ち溢れるように、諸先生方の愛あるご指導のもと、園児たちに夢の種を植えていただきたい」と念じた。
開会式には来賓として全日本仏教会の佐藤義尚副会長、各宗派の仏教保育連盟が参列。佐藤副会長は来賓挨拶で能登半島地震の被災地にある保育園等を視察したことを報告した。
開会式後の記念講演では、埼玉県出身で童謡「たなばたさま」などを手がけた作曲家の「下總皖一の世界」を孫の下総佐代子さんが語りと歌で紹介。記念演奏ではウクライナの歌姫ナターシャ・グジーさんが平和への思いを語ると共に、ウクライナの民族楽器であるバンドゥーラと水晶のような歌声を響かせた。
2日目は大宮ソニックシティを会場に10分科会が行われたほか、埼玉県佛教保育協会が毎冬に開催している「幼児画展」が今大会に合わせて同時開催された。
2024/8/8・15合併号
比叡山宗教サミット37周年 諸宗教の祈り 世界へ 100歳の座主が平和メッセージ
平和の鐘の音が響く中、宗教者が黙祷を捧げた 超宗教で世界の恒久平和を祈る比叡山宗教サミット37周年・第38回「世界平和祈りの集い」が4日午後、滋賀県大津市の天台宗総本山比叡山延暦寺で開催された。約420人が参加。各国の諸宗教者との対話・協力による平和活動と異常気象から地球を守る環境保全活動の実践を誓い、山上に鳴り響く平和の鐘の音に乗せて比叡山上から世界中に祈りを発信した。
一隅を照らす会館前「祈りの広場」で、「平和の祈り」。次代を担う若手宗教者を代表して教派神道連合会の北川真喜子氏と神社神道の金子元紀氏がステージに登壇し、「平和のために祈ることは、平和のために働くこと、そして平和のために苦しむことですらある」とする比叡山メッセージの全文を交互に読み上げた。
大樹孝啓天台座主をはじめ、仏教・神道・キリスト教・イスラム教などの各教宗派・団体の代表9氏がステージに登壇。午後3時半、文殊楼横鐘楼の「世界平和の鐘」を打ち鳴らし、参加者全員が起立して黙祷を捧げた。
青年期が戦争の時代と重なる実体験から平和の尊さを説いている大樹座主は、「私は6月23日に有り難くも100歳を迎え、難儀さを感じながらも日々を過ごしている」と挨拶。「気候変動に伴う大規模な自然災害は常態化の様相を見せ、世界各地では未だ武力紛争が止むことなく続き、命を落としている人々が多くおられる」と憂慮し、「それらが一刻も早く復興や和解に向かうことを皆様と共に強く祈り続けたい」と表明した。
次いで世界仏教徒連盟のパロップ・タイアリー会長(タイ)から寄せられた平和のメッセージを、全日本仏教会の村山廣甫副会長(大阪府佛教会会長)が代読。智慧と慈悲の心で争いの原因を断つ仏教の思想を紹介した。バチカン・ローマ教皇庁諸宗教対話省長官のミゲル・アンヘル・アユソ・ギクソット枢機卿のメッセージ「諸宗教対話が『世界平和のための必須条件』」も披露された。
酷暑と荒天への対策として、「平和の式典」を屋内の延暦寺会館で挙行する形に昨年から変更。阿部昌宏宗務総長は午後1時からの開式の辞で、パリ五輪開催中も世界各地で戦闘が続いていることを懸念し、「(今、この瞬間も)暴力に怯える人々がいることを見過ごしてはならない」と訴えた。
昨年から参加者記念品を廃止して相当額を寄付することを決定し、世界の子どもたちの権利の実現と健やかな成長を願って(公財)日本ユニセフ協会に寄託。支援金寄託式を挙行し、阿部総長が早水研同協会専務理事に40万円の目録を手渡した。
2024/8/8・15合併号
佛教大学 プロバスケ京都ハンナリーズと包括協定 「共に、登る」仲間に
マスコットに挟まれる伊藤学長㊨と松島社長 プロバスケットボールチームの京都ハンナリーズと佛教大学(京都市北区)は2日、包括連携協定を締結した。佛大は10月から始まる次シーズン(24―25シーズン)でゴールドパートナーにもなり、今後、人材育成や学術研究など様々な面で協働をしていく。
ハンナリーズはBリーグB1西地区に所属。2008年に結成されて以来、京都府民から大きな支持を集めている。近年は地域の高校や大学と連携を強化する方針を出しており、このほど佛教大学との協定となった。
ハンナリーズ運営会社のスポーツコミュニケーションKYOTO㈱の松島鴻太代表は「京都の100年先に貢献するというビジョンを掲げて地域密着、社会貢献に取り組んでいる中で、この連携協定には感謝していますし、私たちとしてもチャレンジ」と挨拶。伊藤真宏学長は「スポーツも教育も、社会を豊かにする力があり地域に感動を与えるもの。ハンナリーズさんのスローガンは『共に、登る。』ですが、ハンナリーズさんと共に登って京都で輝く存在になりたい」と笑顔を見せた。(続きは紙面でご覧ください)
2024/8/1
第58回仏教伝道文化賞 本賞 ポール・グローナー氏(米国バージニア大学名誉教授・日本仏教研究) 沼田奨励賞 吉水岳彦氏(ひとさじの会通じホームレス支縁・浄土宗)
ポール・グローナー氏 (公財)仏教伝道協会(木村清孝会長)は7月24日、都内の仏教伝道センタービルで第58回仏教伝道文化賞選定委員会(大久保良峻委員長)を開催し、仏教伝道文化賞にポール・グローナー氏(78、宗教学者・バージニア大学名誉教授)を選出した。沼田奨励賞は吉水岳彦氏(45、浄土宗光照院住職、ひとさじの会事務局長)に決まった。
グローナー氏はイェール大学で学位を取得した後、東京大学の平川彰教授のもとで戒を研究。20年間日本の各研究所、諸大学の客員教授を務めた。長年にわたり日本の文化と仏教の研究に尽力し、英語を通じて日本仏教を諸外国に伝え、また日本において若手研究者の育成に貢献したことが評価された。
吉水岳彦氏 吉水氏は2009年に若手僧侶の有志と「社会慈業委員会ひとさじの会」を設立し、東京・山谷地区等での路上生活者への炊き出しや葬送支縁を行う。子どもの居場所作りや被災地支援活動も行っており、仏教の慈悲の精神に基づいた活動等により、寺院の宗教的・社会的活動が高く評価されていることが讃えられた。
贈呈式は10月17日午前11時から、東京都港区の仏教伝道センタービルで開く。受賞者には賞状と賞金(本賞500万円、奨励賞300万円)、記念品が贈られる。
仏教伝道文化賞は国内外で仏教関連の研究や論文、美術や音楽、仏教精神を基に活動する実践者など、幅広い分野で仏教精神と仏教文化の振興と発展に貢献した人物や団体に贈られる。2012度から今後の活動に期待ができる個人や団体に贈る「沼田奨励賞」が設けられた。
受賞者コメント
グローナー氏 良き友に恵まれ
私は多くの先生方や良き友の指導や手助けに恵まれてきました。それらの支えがなければ私が成功することはなかったでしょう。
吉水氏 今後の精進の糧に
このような賞をいただく身の程ではありませんが、奨励賞という名の通り、慈悲の精神を広く伝えるための今後の精進の糧にしたいと思います。選考委員の皆様からの「これからも頑張りなさい」という未熟な私への応援の意味も込められているのだと、有り難く感じております。賞金は私がお手伝いをしております東日本大震災の被災地である石巻市の西光寺で建立中の「いのり大佛」、在日ベトナム人の駆け込み寺としてティック・タム・チー尼僧が建設中の「東京大恩寺」、能登半島地震の支援などに充てたいと思います。
2024/8/1
日宗連 被災地石川県で宗教法人セミナー 高齢化、継承者不在、不活動化懸念、避難離郷… 被災法人多重苦に直面 復興断念寺院 法人解散を選択肢に
七尾市の大谷派教務所で開かれたセミナーはオンラインでも配信された (公財)日本宗教連盟(日宗連、石倉寿一理事長)は7月19日、石川県七尾市の真宗大谷派能登教務所を会場に第7回宗教法人の公益に関するセミナー「能登半島地震の地域コミュニティにおける宗教法人の現状と課題」をオンラインを併用して開催した。被災法人には、宗教施設の復旧・復興への足がかりとなる指定寄附金制度の活用が可能となる一方で、不活動法人対策も迫られた。
最初に発災直後から被災地で支援活動をしながら宗教団体・宗教者の活動を観察してきた大阪大学の稲場圭信教授が講演。これまでの経験と研究を踏まえた上で、「地域資源としての宗教施設・コミュニティ」の観点から、被災宗教施設への公費解体・復興基金・指定寄附金制度の適用を主張。また地震後、被災檀信徒らの避難離郷により宗教法人が不活動化することへの懸念も示した。
大谷派能登教務所の竹原了珠所長は353カ寺を管轄する能登教区の現状を報告。能登地方の住民の多くが大谷派門徒で、ほぼ全域が消滅可能性自治体であり、超高齢化地域だと説明。寺院も小規模がほとんどで、継承者不在もかなりの割合に上るという。2017年アンケートでは、寺院の経済規模が「200万円と答える寺院が最も多い」。そして新型コロナを経ての今回の地震。竹原所長は「『復興』という言葉が、能登の寺院に当てはまるには非常に過酷な状況がある」と多重苦に直面している寺院の苦境を代弁した。
被災した高齢者の多くは、仮設住宅や復興住宅で最期を終えていくだろうとし、竹原所長は「救いのない中で、被災者を見守って最後まで見届けていく存在を残すことが、われわれのなすべきことと思いを定めた」と述べ、「その存在とは、先祖からずっとその役割を担い続けてきた寺院または神社に他ならない」と表明した。
一方で、被災寺院が「心折れて、法人解散やむなしという寺院もあるだろう」と推察。ある不活動の小規模寺院が大谷派から離脱した事例を説明しながら、不活動法人化を防止するためにも「復興を断念したお寺が不活動法人化するのではなく、安心して解散できる道を作ることが重要と思われる」と主張。復興だけでなく法人解散を選択肢に加えるよう、包括法人や行政側に訴えた。(続きは紙面でご覧ください)
2024/8/1
ドキュメンタリー映画『グリーフケアの時代に』 出演者らトーク 死者の力に動かされ
上映後、出演者らによるトークイベントが行われ ドキュメンタリー映画『グリーフケアの時代に―あなたはひとりじゃない』の上映会が、7月5日に東京都千代田区のアテネ・フランセで開かれ、出演した曹洞宗通大寺の金田諦應住職、グリーフパートナー歩み代表の本郷由美子氏、公認心理士の井出敏郎氏、中村裕監督のトークイベントも行われた。
東日本大震災の被災地で傾聴活動を続ける金田住職、娘を病気で亡くした看護師、がんサバイバーで自死遺族の女性、悲嘆をわかちあう会を開く心理士らがグリーフ(悲嘆)のなかで生まれた言葉を紡ぎながら悲しみと共に歩む姿を描く。
上映後のトークで金田住職は震災直後に「衣も教義も脱ぎ捨てて」軽トラックに喫茶店道具を積んで被災地を巡回し「ただひたすら聴く。共にいるということを徹底した」と回想。「人間にはレジリエンス(自己再生能力)がある。悲しみの中から立ちあがる時に、キラキラした言葉が出て、一歩を踏み出していく。それを傍で見ることを許された。死者にも力があり、私たち自身が圧倒的な死者の力に動かされた」とその経験を共有した。
本郷氏は大阪教育大学附属池田小事件で愛娘を亡くし、グリーフケアに出会い、それを広める活動に取り組む。「20年前はグリーフケアと言っても通じなかった」と振り返りながら、「犯罪被害も震災も経験しましたが私は幸せだと思っています。悲しみを通して人間の心の深い部分にある幸せの秘訣に気づけたから。悲しいことがたくさんあると思いますが、グリーフケアの営みが広まってほしい」と願った。
中村監督は「出演してくれた方のいのちを振り絞るような言葉」でグリーフケアとは何かを伝える作品と紹介。映画のなかである女性が隣人から届けられたケーキに救われるエピソードをあげて「あの関係が周りにあれば、悲しさに出会っても再生していける」と身近にあるケアの諸相から希望を語った。
上映会は各地で開催されており、今回は浄土真宗僧侶の藤村行一氏の呼びかけで金田氏らのトークイベントも行われた。上映会の問い合わせは㈱平成プロジェクト(info@heisei.pro/☏03-3261-3970)。
2024/8/1
全国教誨師連盟 不適正処遇発見に協力 名古屋刑務所暴行事件受け
大谷総裁の挨拶を聞く各教団の代表ら (公財)全国教誨師連盟(竹岡郁雄理事長)は7月25日、京都市下京区の西本願寺聞法会館で宗団代表者との連絡協議会を開催し、理事と各教団の教誨師団体の代表者が意見を交換した。教誨師の減少や宮崎刑務所廃止など矯正施設の縮小もあり、さまざまな時代の変化に直面する中で、従来の教誨の枠を超えた新しい試みも模索されている。
冒頭、大谷光淳総裁(浄土真宗本願寺派門主)が挨拶。「来年6月1日より改正刑法の施行が決定されており、懲役刑と禁錮刑が『拘禁刑』として一本化されます。そこでは被収容者の更生教育が義務付けられるなど、再犯防止や矯正指導に注力できる刑罰制度への転換が図られている」と述べ、社会状況に応じた教誨活動に取り組む必要性を呼びかけた。
法務省矯正局からの依頼により、今後、教誨師が矯正施設における不適正処遇の早期発見に協力することになった。一昨年に名古屋刑務所で22人もの刑務官が被収容者に暴力をふるい、土下座を強要するなどの犯罪行為が明らかになった。こうした不適正処遇の早期発見のため、教誨師や篤志面接委員が被収容者との面接の中で「暴力を振るわれた」などの発言を聞いた際には被収容者の同意を得た上で施設長に通知をしてほしいと矯正局から要請があったという。本年2月に竹岡理事長が教誨師に協力について書面で通知した。ただし竹岡理事長は「被収容者から話しだした場合にのみ対応することとし、いたずらに不適正処遇について聞き出すことのないようご注意願います」と念を押している。
昨年12月から矯正施設で運用されている「心情伝達制度」は、犯罪被害者や遺族の心情を施設職員が聞き取って収容されている加害者に伝え、更生を促す制度。教誨師連盟からは被害者の心情を加害者に伝える役目を担う職員の心理的負担が大きいため、教誨師が立ち会うことも可能にしてはどうかという意見を矯正局に伝えている。矯正局からは検討の結果、立ち会いはさせられないが職員のメンタルケアを教誨師が行うことは「ぜひやってほしい」と回答があったとした。
7月
2024/7/25
宗門系大学サバイバル 立正大学編 安中尚史仏教学部長に聞く 現代的課題に対応する僧階講座
日蓮宗の宗門校の一つである立正大学(東京都品川区大崎)は、日蓮宗僧侶の教育機関であった飯高檀林を淵源とし、僧侶養成機関としては450年近い歴史がある。大学としては2022年に開学・開校150周年を迎え、9学部16学科、大学院7研究科を擁する総合大学として発展してきた。少子化など時代の変化の中で僧侶養成を担う仏教学部はどのように対応しているのか、安中尚史学部長に話を聞いた。
歴史ある同大にも少子化という時代の波は訪れている。仏教学部の学生数も国の政策などに影響を受けつつ、近年減少傾向が続いている。
同大仏教学部の学生数の推移を見ると、2020年度は定員105人に対し入学者105人と充足率100%だったが、その後、充足率90%(21年度)、79%(22年度)と減少。国が私立大学の定員厳格化を緩和した影響もあり、23年度は58%にまで下がった。24年度は65%まで上昇したが、依然として厳しい状況となっている。
安中学部長は、「特に2020、2021年は国が首都圏の大学の定員管理を非常に厳しくした2年間だった。いわゆる上位の大学が人数を厳しく制限し、受験者が目標を下げる傾向がありました。それにより多くの大学では志願者が増える傾向にあったのですが、それが22年度に元通りに緩和されたので、23年度は大きく減少してしまった」という。
もちろん、少子化や教育政策など環境のせいだけにしてはいない。「原因は少子化にもありますが、学部としての努力不足であり、反省する必要があると考えています」
20年度から、仏教学部は学科から学部での募集に切り替えた。来年度からは、さらに新コース制をスタートさせる。1・2年次は仏教学部生全員が共通のプログラムで仏教全般にわたる基礎を幅広く学び、3・4年次に学科(コース)を決定する。「歴史・思想」「文化遺産・芸術」「日本宗教・文化」「法華仏教」に分かれ、興味に沿って専攻分野の学びを深めることができる。学生のための学びやすさを考えた改編だろう。
「定員割れはしているのですが、逆に仏教学部を第一志望にして入学する人が増えている。学内の志望順位は3番目、4番目。他大学との関連もありますが、他大学や他学部志望の学生の入学が減り、元々仏教学部を志望する学生が増えています。去年、今年に入学した学生は、特に意識が高いと先生方からも聞いています」
僧侶を目指す者の多くが選ぶのが宗学科「法華仏教コース」だ。宗祖日蓮聖人の思想や行動をたどり、法華経の教えを受け継ぐ担い手を育成している。
僧侶を目指す学生が全単位を修得することを目標とする僧階講座(全50単位)は、科目等履修生の制度により他大生にも学ぶ機会を提供している。修得単位数や学部学科、他大生などの所属等により条件は異なるが、日蓮宗僧侶となるための信行道場の入場資格や叙任規程に基づいた僧階を受けることができるようになっている。これにより、他大に通う宗門子弟にも僧侶となる道が開かれている。
この僧階講座は、同大の歴史ある僧侶育成の積み重ねが生んだ学びの結晶だ。シラバスには「日蓮聖人伝」や「開目抄講義」「観心本尊抄講義」「法華経概論」など伝統的な教学を学ぶものや、「法要実習」「宗教法人法」「現代宗教研究」といった僧侶、宗教者に関する科目が並ぶ。(続きは紙面でご覧ください)
2024/7/25
旧統一教会訴訟 念書「無効」と判断 最高裁、高裁へ差し戻し 不当寄付勧誘防止法に言及
旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の元信者女性が違法な勧誘によって献金を支払ったとして損害賠償を求めた裁判で最高裁第一小法廷は11日、返金を求める訴訟は起こさないとする元信者の念書が「公序良俗に反し、無効」であると判断した。教団への献金について最高裁が判断を示すのは初めてで、同種の訴訟に影響を与えるとみられる。
裁判官5人全員一致の意見だった。最高裁は、不起訴合意に関する念書の有効性について経緯や趣旨、目的、対象となる権利など、「当事者が被る不利益の程度その他諸般の事情を総合考慮して決すべき」との判断枠組みを示し、教団勝訴とした一審、二審判決を破棄して審理を東京高裁に差し戻した。
「念書」について、裁判所に訴えないことを明記していることに対し「裁判を受ける権利を制約するもの」とし、「その有効性は慎重に判断すべき」と判示している。
元信者は平成17年(2005)以降、1億円を超える献金を行い、平成20年(2008)以降は所有する土地を売却してまで献金を続けた。残った資産も信徒会に預けた上で献金し、信徒会から生活費を交付される形となっており、生活に大きな影響がある「このような献金の態様は異例のもの」とした。
元信者は平成27年(2015)8月、長女に高額献金した事実を告白。旧統一教会側は同年11月、不起訴合意の念書を作成。元信者は86歳で、半年後にアルツハイマー型認知症と診断された。判決では、元信者は旧統一教会の「心理的な影響の下」にあり、「当否を冷静に判断することが困難な状態にあった」とし、「一方的に不利益を与えるもの」として念書を無効と判断した。
また安倍首相狙撃事件後に提起され、2023年1月に施行された不当寄附勧誘防止法(法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律)の第3条に言及したうえで、寄附者への十分な配慮が求められるべきだとした。
判決に対して、教団側は「本件判決は,私的自治の原則や、原審による事実認定の尊重などの、当然遵守すべき法理を曲げてまで下した『結論先にありき』の判断」と批判する見解を発表している。(続きは紙面でご覧ください)
2024/7/25
神戸市佛文化講座 神田神父、震災30年を語る 諸宗教協力が信仰深める トレードマーク タオルも健在
タオルにまつわる秘話も明かした神田神父 神戸市佛教連合会(善本秀樹会長)は17日、中央区の浄土真宗本願寺派神戸別院で第110回仏教文化講座を開催した。講師は阪神淡路大震災において被災者支援に尽力したカトリック神父の神田裕氏(兵庫県三田市・三田教会)。当時、協働した僧侶たちも含め、約100人が聴講した。
神田神父はトレードマークの首掛けタオル姿で講演。阪神淡路大震災直後から、当時神田神父が勤めていたたかとり教会(長田区)は大きな被害を受けながらも、ボランティアの拠点となった。タオル姿で働く神田神父の姿はテレビでも放映されたが、ある日、遠方からタオルの支援物資が届いた。「これが自分にとって一番印象深い物資。手紙に、ちゃんと(タオルを)洗ってますか?って書いてあった。ああ、見ていてくれる人がいるんだなって励まされて」と回想し、それからずっと輪袈裟のように着けていると話した。ちなみに1997年の全日本仏教徒会議兵庫大会にもこのタオル姿で登壇している。
神田神父の両親は真面目なカトリック信徒。「カトリックの中に育った私は、震災があった36歳の時まで、仏教のお坊さんや神道の宮司さんにはほぼ出会ったことがなかった」という。ボランティア活動の中で僧侶や宮司、プロテスタントの牧師たちと協働し、お寺や神社や教会を訪れ食事して酒を飲んで話をして交流が深まっていった。「仲良くなればなるほど、自分の気持ちの中でカトリックに向き合うことができた」とし、僧侶も宮司も牧師もそれぞれの信仰生活と社会活動の中で輝いている姿を見たことが信仰を深めることに繋がったと、他を排斥しない諸宗教協力の精神的な果実を語った。
毎年1月17日にたかとり教会で震災慰霊追悼式が営まれており、全日本仏教青年会も参加している。神田神父は、震災から3年後の1998年に発表した「宗教者による神戸メッセージ」を読み上げ、「最後の一人が震災から立ち直るまで地震は終わらない」という思いを告白。震災30年に当たる来年の追悼式でも再びこのメッセージを発したいとした。
2024/7/25
全葬連 石井時明会長インタビュー 全葬連が要望する法制化とは 届出制で葬儀業界全体の資質向上
石井時明(いしい・ときあき)/1956年生まれ。富士見斎場株式会社会長(神奈川県秦野市)。高校在学中、父の急逝により創業間もないさがみ葬儀社(当時)を継ぐ。2018年から全葬連会長 今年5月末の理事会で再任され4期目に入った全日本葬祭業協同組合連合会(全葬連)の石井時明会長(68)。「責任と使命感」を強調し、業界全体の健全化と消費者保護の立場から進めている法制化への意欲を示した。10年以上にわたり法制化を要請してきた意図についてインタビューした。
全葬連が主張している法制化の内容は、2点(別掲)。事業者の届出制と講習を受講した管理者の設置である。新型コロナ禍を例に説明する。「コロナ禍では感染症のリスクを避けるため経済産業省と厚生労働省がガイドラインを作成し、われわれはそれに添って、例えば納体袋を用いるなどして対応してきた。葬儀業界は約5~6千社あるとされていて、実は誰も実数を把握できていない。全葬連1200社、互助会200社、農協400社。これで約1800社。5千社とした場合、残りの3200社にはガイドラインの通知が届かない。その結果、納体袋を使っていなかったり、普通に参列者を入れているケースがありました」
全葬連はガイドラインの情報をキャッチすると同時に加盟社に通知。しかし組織に入っていない事業者はよほどアンテナを張っていないと気づかない。担当省庁が事業者に連絡しようにも名簿すらない。一方で法制化には別の背景がある。
「わかり易く言うと、病院で亡くなるまでは医師法(死亡診断書等)がある。そして○月○日○時にA火葬場で火葬にしますというのは墓埋法(火葬・埋葬の許可等)。病院から火葬場までの間、ご遺体の保全や管理に関する法律はありません。われわれに関係するのは24時間以内の火葬・埋葬を禁止する墓埋法の規定だけです」
死亡から火葬・埋葬までの間に葬儀がある。この間、遺体をどのように扱うのかという法的な規定はない。石井会長によると、川崎市では廃工場の中に棺が並べられていたり、大阪では民泊施設に棺が預けられていた。愛知では葬儀社が棺(2体)をしばらく放置していた。「病院の手を離れて火葬されるまではモノ扱い」となるため、事件とはならない。こうした死者(遺体)への尊厳を欠いた行為が相次いでいることに石井会長は嘆息する。
以前は、いったん自宅に安置することもあったが、それもなくなってきた。石井会長の会社では安置室で管理する。「遺族の方がいつ顔を見に来られてもいいようにしています。地元で密着して仕事をしていますからしっかりと対応しています」。他方、ネットを介すと安置場所が遺族の自宅から遠く離れていたり、明かされないケースもある。
意外なのは遺体の取り違え。「かなり気をつけているはずですが、男性と女性を取り違えたり、火葬した後に、お父さんはこっちにいるとか…。現在の年間死者数が158万人。2040年が167万人のピークを迎え、多死社会は続く。そうするとさらに増えかねません」
葬儀費用をめぐるトラブルも絶えない。消費者生活センターが発表した事例は、広告では「家族葬約40万円」としながらも、担当者からオプションが次々に追加され合計額が300万円近くに上ったというものだ。石井会長は「毎年のことなら知識も積み重なり対応できます。しかし葬儀は何十年に1回です。親の葬儀が初めてという人は多い」と言い、だからこそ消費者保護の意味でも法制化は必要だと訴える。(続きは紙面でご覧ください)
2024/7/18
広島でAI倫理国際会議 ローマに応答 平和利用推進 WCRP日本委杉谷義純会長ら署名
法律家、科学者や企業重役なども参加した会議 国際会議「平和のためのAI倫理―ローマからの呼びかけにコミットする世界の宗教」が8~10日、広島市の広島国際会議場で開催され、宣言を採択した。急速に進むAI技術の野放図な使用により人間の尊厳や民主主義が破壊され、時には軍事技術、核兵器にまで悪用されることを危惧し、倫理観を持った平和利用を促進するもの。世界中の宗教者や法律家、IT企業重役など約150人が直接参加した(このほかオンライン参加約50人)。
2020年2月、ローマ教皇庁生命アカデミーから発された「AI倫理のためのローマからの呼びかけ」(ローマコール)。これに対し23年にはイスラムのアブダビ平和フォーラム、ユダヤ教のイスラエル首席ラビ委員会が同意署名をしている。この国際会議は「アブラハムの宗教」以外の宗教による応答として世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会がホスト役を務め、4団体の共催として開催された。
9日の開会式で教皇庁のヴィンチェンツォ・パリア大司教は「広島こそ、テクノロジーが最も暴力的で破壊的な顔を見せた場所です。ここ広島で人類は初めて、技術が人類を破壊する力になることを知り、その悪の面に触れた」と原子爆弾の暴力性を指摘。そして、宗教者たちの知性は破壊ではなく創造のために科学技術を導くと論じ、アルゴリズム(演算)とエシックス(倫理)を複合させた「アルゴエシックス」が求められるとした。岸田文雄首相もビデオメッセージを寄せた。(続きは紙面でご覧ください)
2024/7/18
宗門系大学サバイバル 大正大学編 神達知純学長に聞く 実習は各宗派本山とも連携
天台宗・真言宗豊山派・真言宗智山派・浄土宗の設立4宗派と時宗が運営する大正大学(東京都豊島区)は、世界でもまれな仏教総合大学である。2年後には創立100周年を迎える。宗門子弟教育の現状や今後の展望を神達知純学長(天台宗)に聞いた。
仏教学部仏教学科の全学生数(約400人)のうち、寺院子弟が6割ほどを占める。かつては埼玉校舎にあった道心寮で「同じ釜のメシを食いながら」各宗派の僧堂教育が行われていた。現在はすべて巣鴨キャンパスで実施されている。「大正大学は複数宗派による大学なので宗派によって僧侶養成が異なるところがあります。なので大正大学として一括りにして答えるのは難しいのです」と神達学長。
カギとなるのは宗派や本山との連携だという。「各宗派のカリキュラムを見ていくと、〈座学×実習〉という形は共通しており、これを崩してはいけない。なぜか。宗門子弟教育は、単に知識と技能を身につけるだけのものではなく、ましてや資格取得のためだけ のものでもない。人間性を涵養する教育であるべきだと私は思っています。将来、慕われ、敬われ、人の思いに寄り添う僧侶であってほしい――そう願って僧侶教育をしてきています」
〈座学×実習〉は守るべき伝統であり、「慕われ、敬われ、人に寄り添う僧侶であって欲しい」という思い は、仏教界の願いでもある。〈座学×実習〉はどのようになされているのか。「座学は、学生が教室で教員から歴史や教学などを学ぶもの。その先に法儀研究があります。巣鴨キャンパスの13号館に各宗派の勤行室があり1~2年生が受講する。これ以外にも本山等での学外実習が各宗派で行われています。2~3年時ですが、それが宗派の(僧階に必要な)加行とつながっている。こうした実践的な僧侶教育は大正大の特色だろうと思います」
実習は大学のみで完結するのではなく、宗派本山の加行と連動しているとの指摘である。神達学長は他大学で学んだため、比叡山の行院に入って僧侶の基本を修習した。「私は学生時代、いきなり行院に入りました。当時大正大には道心寮があり、大正大生たちは作法もきちんとしている。そして団結力がありました。かといって私のような学外生を受け入れてくれる。いい仲間に恵まれました」
一方で、保護者(住職世代)から、早く資格をとか、お寺のためになる勉強をといった即戦力を期待する声がしばしばあがる。これについて神達学長は「お寺の事情ですぐに入らなければならないケースはやむを得ないでしょうが、若い時に人生経験を積み重ねることで人間としての深みが増していくと思うのです。一見無駄と思われるような経験が人生を豊かにする。学ぶ意欲を芽生えさせるのは大学の役割でもある」と大学生活の意義を強調する。(続きは紙面でご覧ください)
2024/7/18
新宗連や日宗連 理事長人事決まる
新宗連 石倉理事長を再任
(公財)新日本宗教団体連合会(新宗連)は6月26日、東京・代々木の新宗連会館でオンラインを併用して評議員会と理事会を開催。任期(2年)満了に伴う役員改選を行い、石倉寿一氏(大慧會教団会長)が理事長に再任された。
また常務理事の宮本惠司(妙智會教団法嗣)江口陽一(大法輪台意光妙教会理事長)庭野光祥(立正佼成会次代会長)力久道臣(善隣教教主)4氏も再任された。
石倉理事長は1960年4月生まれ。大阪・堺市の大慧會教団の第3代会長。
日宗連理事長に石倉氏
(公財)日本宗教連盟(日宗連)は6月28日、書面表決による理事会で新理事長に新宗連の石倉寿一理事長を選任した。
日宗連理事長は、傘下の教派神道連合会(教派連)、全日本仏教会(全日仏)、日本キリスト教連合会(日キ連)、神社本庁、新日本宗教団体連合会(新宗連)5団体代表が1年交替で就任。
2024/7/18
本願寺派「宗門の明日を考える会」 大谷派の宗憲改正に学ぶ 超法規的存在を認めず
宗教組織の諸問題を考察した社会学者の宮部氏 浄土真宗本願寺派の有志団体「宗門の明日を考える会」(武田達城・梯良彦共同代表)の研修会「真宗大谷派の『宗憲』改正の願いに学ぶ」が10日、大阪市中央区の本願寺津村別院で開かれた。立命館アジア太平洋大学助教の宮部峻(たかし)氏(社会学者)が、1981年の大谷派宗憲改正を事例に宗教組織の諸問題を考察した。
多くの仏教教団が都市化と共に、教団の基盤の見直しと都市開教の必要性から組織改革を迫られたと指摘。「大谷派の改革運動の大きな特徴は信仰運動と組織改革運動が一体になって行われた点にある」とし、「家」制度によって成り立っている教団構造から同朋会運動などによって教学に基づいた組織の近代化を志向したと述べた。
「改革派から見た大谷派の法制度的課題」として、1929年に制定された宗憲の問題を分析。聖なる面として教義解釈をめぐる条項、俗なる面として組織運営をめぐる事項が規定されていることで信仰共同体と行政組織の葛藤が生じるとし、それが顕在化したのが1981年の宗憲改正に繋がる事態だったと位置付けた。
宗教的権威である法主の地位に関する教学上の見解の違いだけでなく、宗教法人の代表上の地位をめぐる論争が勃発。「法律上の地位は教学論争では解決できない」とした。(続きは紙面でご覧ください)
2024/7/11
臨済宗妙心寺派 フランス人僧侶が垂示式
太心住職(右から3人目)と内局部長、宿院住職 フランス唯一の臨済宗妙心寺派寺院である正法寺の太心宗明住職(フランス名クリストフ・セルジュ・フィリップ)が1日、京都市右京区の大本山妙心寺で「垂示式」を挙行した。妙心寺派で外国籍僧侶が垂示式を行い正式に前堂職となるのは極めて珍しく、フランス人としては初。
太心住職は1968年生まれ。若い頃から禅に関心が深く、兵庫県神戸市の祥福寺僧堂で10年ほど修行をしたこともある。フランスの正法寺はリヨンから南に70キロほどのサン・ローラン・ドゥ・パプ村に所在し、2004年に妙心寺派寺院として包括関係を結んでいる。太心住職は2020年から沙弥として住職を務めていた。日本の場合、前堂以上の法階がなければ住職にはなれないが、「海外寺院の場合はその辺りは柔軟に対応していた」と宗務本所担当者。宗務本所から垂示式のすすめを受けた太心住職は、本格的に住職となって弟子を育てたいとの熱望を伝え、垂示式に至った。
太心住職は垂示式における問答や、修行中のエピソードや禅の哲学を巧みに織り交ぜた法話もすべて日本語で実施し、日本人禅僧と同じ行程を完了。無事前堂職に任命された。筆記レポートも日本語で提出した。ちなみに正法寺には現在、日本人スタッフはおらず、現地人により運営されているという。
垂示式後に各部長から激励を受けた太心住職は、フランスでの臨済禅の受容はまだまだこれからといった現況を話しつつ、寺門興隆への情熱をみなぎらせた。
2024/7/11
第41回日韓・韓日仏教交流大会 増上寺で世界平和祈願 「一即多、多即一」 平和共存へ韓国会長説示
内陣で世界平和祈願法要に臨む日韓・韓日仏教の役職者 第41回日韓・韓日仏教文化交流大会が6月27日、東京・芝公園の浄土宗大本山増上寺で開かれた。韓国側の韓日仏教文化交流協議会(会長=眞愚・曹渓宗総務院長)から約100人が参加し、日本側の日韓仏教交流協議会(会長=藤田隆乗・真言宗智山派川崎大師平間寺貫首)から約60人が参じた。世界平和祈願法要や「激変する世界秩序と仏教の可能性」をテーマにした学術会議を通じて、両国親善と共に世界の平和を願った。
同日午前、増上寺大本堂で小沢憲珠法主を導師に世界平和祈願法要が営まれた。両国の役職者は内陣に参座し、会員らは外陣で法要に臨んだ。日本を代表して柴田哲彦副会長(浄土宗大本山鎌倉光明寺法主)が表白文を読み上げ、「日韓・韓日の文化交流に勤しみ、以て真の世界平和実現と人類和合共生を祈願し奉る」と奏上した。
法要後、両国会長が挨拶。日本の藤田会長は韓国の訪問団を歓迎しつつ、今日の世界が直面している紛争や頻発する自然災害に言及し、「現代的苦境が生起している今、私たち宗教者は人々の心に寄り添う力を養い、いかにして解決方法を見出すのか、その術を模索することが大きな課題」と述べ、仏教者の取り組みを促した。(続きは紙面でご覧ください)
2024/7/11
東京都仏教連合会 火葬料金値上げ問題を研修 公共性より利益優先懸念
東京博善の火葬料問題を論じた濵名会長 東京都仏教連合会(東仏)は6月27日に台東区の聖観音宗総本山浅草寺(田中昭德貫首=東仏会長)で総会を開き、研修会で東京都葬祭業協同組合の濵名雅一理事長(㈱オリハラ=墨田区)が、都内の火葬場を運営する㈱東京博善の火葬料金値上げ問題を取り上げた。公共性の高い事業を担いながら利益を追求する同社の姿勢を問題視した。
東京23区内には9つの火葬場があり㈱東京博善(港区)は6場を所有する。その他は都営の瑞江葬儀所(江戸川区)、公営の臨海斎場(大田区)、民営の戸田葬祭場(板橋区)。東京博善と親会社の㈱廣済堂(港区)は、2021年1月に火葬料金を5万9千円から7万5千円に値上げし、翌2022年6月からは燃料サーチャージを導入して料金に上乗せ。その後2カ月毎に燃料サーチャージを見直ししては値上げを行ってきた。今年6月から燃料サーチャージを取りやめ一律9万円とする料金改定を実施した。火葬は公共性が高く、都以外では基本的に自治体が火葬場を運営し、住民は無料から数千円程度で火葬できる。
濵名氏は23区内の火葬の75%を東京博善が占める状況下で、業界関係者への相談もなく、都民生活に負担を及ぼす同社の運営に「独占状態のなかで経済的な追求のもとに制限なく値上げを繰り返している」と批判。東京都や23区の各自治体に「是正を求める申し入れ」を行っている一方で、「墓地埋葬法」では、墓地や火葬場を「許可する権限はあるが罰する権限がない」と述べ、法律の不備も指摘した。(続きは紙面でご覧ください)
2024/7/11
宗門系大学サバイバル 僧侶養成と少子化の狭間で 龍谷大学編 入澤崇学長に聞く 総合大学ならではの全人的育成
学生がプレゼントしてくれたアクリルの似顔絵を持つ入澤学長 浄土真宗本願寺派の宗門校である龍谷大学(本部=京都市伏見区)は3つのキャンパスに10の学部を擁し、約2万人の学生が学ぶ。近年は「仏教SDGs」を掲げ、地球規模の問題を仏教の視点から解決するための全人的な教育にも取り組む。その原点は1639年に西本願寺の僧侶養成のために設立された「学寮」だ。現在でも多くの本願寺派僧侶はここで学んでいるが、入澤崇学長は「子弟教育という面では危機的な状況」と語る。
「寺の子ども自身が自分の人生をどういう風に見ているか、今どういう気持ちでいるか、を考えなければならないと思います。私も寺院子弟ですが、若い頃はいかに寺を出るかということしか考えていなかった。結果として住職をやっていますが。今はお寺の子がすんなり真宗学科、仏教学科に入っている状況ではない」と見る。真宗学科の学生は寺院子弟が半分を切っているといい、打開するためには学科や専科で子弟教育や学問のあり方を問い直す必要があるとする。「寺院子弟が真宗学や仏教学に背を向けているのはどうしてか。私はずばり言って、魅力がないからだと思うのです」と厳しく分析する。
原点を見つめる
「僧侶になるということは仏教者として生きることですから、仏教の根本に向き合い原点を見つめることが大切」であり、ただお寺の跡を継ぐために教師資格を取り、門徒だけを相手に細々とやっていく僧侶になるだけならその人の未来も危うく、仏教界の先はないと憂慮。「お釈迦さまの時代に檀家がありましたか?命をかけて伝道に志す人たちが生きていた。私はもう一度、僧侶はその志を持たなければならないと思う」
では、どのようなことが必要か。「龍大の場合だと、寺院子弟は政策学部や国際学部などまず自分の関心領域に行って、卒業後に大学院で真宗学や仏教学を学ぶ人、あるいは本願寺派の中央仏教学院に行ったりする人がいる。そうした、他の領域を学んでから仏教の世界に入る人をもっと増やしていきたい。社会に目を向けた人が宗門の中に入っていき、伝統教学に欠けているものを補っていく。私は伝統仏教は社会性を見失っていると思うのです」。伝統的な僧侶養成のカリキュラムは大切だが、そこにもうひと工夫の実践的、学際的な学びが必要だという考えだ。
視点を逆にすれば、それは真宗学・仏教学を学ぶ人が他の領域に目を向ける必要性でもある。龍大には、他大学に類例のない「実践真宗学研究科」が2009年に設置され、真宗教義に基づく社会実践を研究しているが、入澤学長はむしろ真宗学・仏教学と実践との交叉は「恥ずかしながらうちの大学の遅れている部分かと思う」と意外な悩みを吐露する。
コロナ禍の際、教職員や学生が協力して困窮する学生に食料配布の支援をしたことがあった。「その時に手伝ってくれた実践真宗学の院生がいたのですが、『こういうことを自分はやりたかったんです』と切々と訴えられました。理論のほうが中心でなかなか実践ができていないというのですね。そういう学生のニーズを捉えきれていない。コロナ禍では実践真宗学こそが立ち上がることを期待したのですが」。とはいうものの「しかしそこで学んだ学生は少数でも非常に優秀。その人たちと話をすると宗門の未来は明るいなと思います」と微笑む。(続きは紙面でご覧ください)
2024/7/4
曹洞宗宗議会 ホテル事業に3社名乗り 賃貸借契約の方向で交渉 能登支援 半損以上の寺院に250万円
交渉の条件についても説明した服部総長 曹洞宗の第144回通常宗議会(浅川信隆議長)が6月24~28日の5日間、東京・芝の檀信徒会館で開かれ、ホテル事業に名乗りを上げた企業3社が発表された。服部秀世宗務総長は交渉の条件として、宗務庁が入るフロアを契約対象としないことなどを盛り込むとし、「候補になる運営業者を1社に絞れれば、契約締結を見据えて交渉を進めていく」と述べた。
候補となったのは、ホテル運営・リゾート開発のリソルホールディングス(東京・西新宿)、貸会議室大手でホテル運営も行うティーケーピー(東京・市ヶ谷)、檀信徒会館運営委員会専門部会にも加わっていたホテル再生を手掛けるシャンテ(岡山県矢掛町)の3社。大和証券を通じて決まった。ホテルの内覧会を実施するなど交渉を始めていて、企業側の質問に応じる協議会には有道会・總和会の両幹事長らも出席した。
服部総長は契約交渉の条件として、▽現在のホテル職員の雇用を継続する▽宗務庁や研修道場が入るフロアは契約の対象外とし、宗議会などに使う会議室を優先的に利用できる▽東京グランドホテルの名称を保持する▽建物のランニングコストは使用面積に応じて案分する―の4点を企業側に提示した。
契約には賃貸と業務委託、事業譲渡のいずれかが考えられるとした上で、服部総長は賃貸の方向性で進めると主張。貸与先の企業がホテル事業を担うと説明し、「経過は逐一、議員と情報を共有しながら交渉に臨みたい」と話した。候補の3社が提案を行うプレゼンテーションが7月9日に予定されている。(続きは紙面でご覧ください)
2024/7/4
真言宗豊山派 新総長に川田興聖氏 今月5日に新内局発足
川田新総長 真言宗豊山派(鈴木常英宗務総長)の次期宗務 総長候補者を選出する第163次宗会臨時会(佐藤眞隆議長)が6月28日、東京都文京区の宗務所で開かれ、川田興聖氏(菩提院結衆、茨城県桜川市・雨引山楽法寺住職)を選出した。川田氏は7月5日に就任し、新内局を発足させる。
岩脇彰信総務部長が総長候補選出の議案第一号の補足説明として「現内局の意思を継続発展させ、真言宗豊山派を輝ける宗団に導くことができる素晴らしい候補者を選出いただきたい」と要請した。議案は全宗会議員から成る特別委員会(平手徳彦委員長/愛知・安楽寺)に付託されて審議。その後、本会議が再開され、平手委員長が「川田興聖氏が全員一致で選出された」と報告した。
青木博芳議員(埼玉三号・金仙寺)が推薦の演説を行い、大きな転換期を迎える現状にあって「宗政の先頭に立って重責を担われる宗務総長には学徳兼備にして識見豊かなる川田興聖僧正が最適任だと存じます」と支持。宗団の充実した基盤作りと活性化、災害対策や危機管理、教化宗団として布教教化の推進、子弟教育の充実と後継者育成、宗派財政の安定確立、総本山長谷寺の護持整備等の推進等々の課題をあげたうえで「川田総長によって構成される内局であれば、必ずや随時適正な決断と果敢な行動力で推進されるものと確信します。宗会をあげて支援協力する」と期待感を示した。(続きは紙面でご覧ください)
2024/7/4
日本仏教看護・ビハーラ学会 設立発起人が20年を振り返る ビハーラはどこでも可能
田宮氏㊨と藤腹氏。左は司会の郷堀ヨゼフ氏 日本仏教看護・ビハーラ学会は6月22・23日に京都市の龍谷大学大宮学舎で第20回年次大会を開催した。周年大会ということでテーマは「ビハーラの原点に返って未来へ」。初日には設立時の発起人代表である田宮仁氏がこれまでを振り返る講演を行い、同じく発起人代表の藤腹明子氏と未来を展望する対談をした。
田宮氏は1981年に「浄土教思想にみる末期患者ケア」と題した発表を日本社会福祉学会で行った。実はこの頃は仏教界は看取りの問題にはほとんど関心を示していなかったと回顧。「仏教系のある学会でビハーラケアについて発表しようとしたら『うちには馴染まない』と拒否されたので、当時は何でもありだった日本社会福祉学会で発表した」と打ち明けた。その翌年に看護師だった藤腹氏と出会い、以後、二人三脚で仏教看護やビハーラの啓蒙に邁進。85年に「ビハーラ」の概念を提唱し、2004年に仏教看護・ビハーラ学会を設立。その後、日本仏教看護・ビハーラ学会と名前を変えて今に至る。
田宮氏は仏教看護とビハーラの関係は並列的なものではないと改めて整理。仏教看護とは仏教を元にした看護論であり、その中の一つとしてビハーラという「看取りの場」でのケア(ビハーラケア)があるとした。「それはビハーラ病棟でなければやれない代物ではなく、どこででもやれるものだ」とし、一般病院や自宅での看取りへのビハーラケアの応用を示唆した。(続きは紙面でご覧ください)
2024/7/4
善通寺派臨宗 上原雅明新総長を承認 賛否同数 議長が判断
所信表明する上原総長 真言宗善通寺派の第123次・124次臨時宗会(生駒琢一議長)が6月27日午後、香川県善通寺市の総本山善通寺内宗務庁に招集された。菅智潤管長(善通寺法主)は、2期目の任期(4年間)の半ばで5月15日に宗務総長(善通寺執行長)を辞任した齋藤弘道氏(68)の後任に、上原雅明氏(68・京都市山科区小野御霊町・大乗院住職)を指名。採決の結果、全議員13人中賛成7・反対6となり、過半数による承認となった。任期は前任者の残任期間で令和8年3月まで。
内局総辞職による新総長承認の議案は第123次臨宗で審議され、菅管長が上原氏の推薦理由を説明。平成25年から善通寺責任役員を務めるなどした経験と幼児教育分野での実績を挙げた上で、「いろいろと困難な状態にある善通寺と善通寺派を導いていただけると期待している」と紹介した。
1度目の採決では賛成5・反対6・保留1で、賛否共に過半数に至らず。議場に緊張が走ったが、報道陣退席の場での協議に入り賛否同数に。議事が再開され、最後の1票を持つ議長の賛成で承認となった。議長判断にまで賛否が拮抗するのは極めて異例という。
上原総長は直ちに組局。久保田法修総務部長(53)と長谷川恵淳教学部長(49)を再任し、新たに安藤誠啓財務部長(52)を加えた。安藤財務部長は引き続き、善通寺の広報・信徒主任も兼ねる。(続きは紙面でご覧ください)